第170話




 ヴァーツ殿達を王都へと送って、ワシ自身は『シャナル』でアレコレと相変わらずせこせこと動いておる。

 その中でも一番大きな物は、『シャナル』と領都ルーデンスにて、初めての領営の治療院が開設される事になったのじゃ。

 今までは、教会による治療院はあったのじゃが、教会を頼り切っておった結果、教会が機能不全を起こすと治療体制が崩壊して、治療出来ず、なんて事になってしまったのじゃ。

 それ以外にも、教会は小さい傷や微妙な病気気味でも治療費が高い!

 庶民が気軽に治療を受けるのは、まず不可能じゃ。

 何せ、『神の奇跡で回復させる』と言う名目で、一回の治療で多くて金貨数枚、少なくても銀貨を請求しておるのじゃから、庶民は気軽に治療を受ける事は出来ぬ。

 その為に、教会で治療を受けられぬ低所得の庶民は、シャーマンや祈祷師と言った民間療法をやっておる者を頼ったりするのじゃが、中にはそれを悪用する詐欺師もおるのじゃ。

 それを解決する為に、ワシがミアン殿に領で運営する治療院を開設する事を提案し、利点を説明した結果、受理されて運営が始まる事になったのじゃ。

 まだ簡単な治療くらいしか出来ぬのじゃが、将来的には外科手術も出来る様にする予定なのじゃ。

 この治療院に勤める予定の医師達は、マグナガン学園の卒業生が就職する予定になっておる。

 その為、治療院が本格運営するのは半年は先になるのじゃが、運営が上手くいけば、将来的にはバーンガイア中に開設する予定なのじゃ。

 そうして、教会の利権をどんどこベリベリと剥がしていく予定なのじゃ。

 妨害もされるじゃろうが、そこは一応防衛策を考えておる。

 それが、教会ですら手を出しにくい組織の力を借りるという事じゃ。

 それこそが、全ての国を跨いで運営をしておる冒険者ギルドじゃ。

 何せ、開局する場所は冒険者ギルドの隣なのじゃ。

 これは当たり前なんじゃが、冒険者は怪我が絶えぬ仕事じゃから、この場所で運営すれば冒険者ギルドにとっても利になるので、治療院を妨害しようとする動きがあれば、ある程度は守ってくれるじゃろう。




 現在はその治療院で使う治療薬を調合しておる。

 まぁ簡単な傷薬と軟膏、それと消毒薬や腹痛等の飲み薬を用意しておる。

 当然じゃが、ちゃんとレシピを残し、治療院でちゃんと作れる様にする予定じゃ。

 材料は冒険者ギルドから購入する事が出来るし、そこまで難しい訳では無いからのう。


「それで、コレは?」


「うむ、今、エルフが住んでおる森があるじゃろ? そこで採れた果実じゃ」


 ミアン殿の目の前に置いたのは、まるでドリアンの様な果実じゃ。

 ファース殿が言うには、仄かな甘味があり、食べると傷の治りが早くなる、と言われておるらしいのじゃ。

 気のせいかもしれないが、と言っておったが、ワシが鑑定した結果、本当に少しだけ治癒力を底上げする効果があったのじゃ。

 ただ、本当に気持ち程度しかないのじゃが、ワシはコレを画期的な果実じゃと思っておる。

 この果実を絞った果汁を、治療を受ける者に飲ませれば、治療後の早期回復に使えるのじゃ。


「成程、では、どの程度収穫出来て、保存性がどの程度なのか調べないといけませんね」


「一応聞いたのじゃが、何でも街路樹程度の大きさの木に結構な数が実るらしいんじゃが、そのままじゃと実が成長せんで小さいままになってしまうらしいんじゃ。 それで10個ほどを残して、他は摘み取ってしまうとの事じゃ。 保存性じゃが実に傷を付けんでおけば、二月は持つとの事じゃ」


「コレが二月も……」


 コンコンとミアン殿がトゲトゲの殻を叩いておる。

 このトゲトゲの殻じゃがかなり硬いのじゃが、別にナイフを使わねば剥けぬという訳では無い。

 成人男性の腕力があれば簡単に割る事が出来るのじゃ。

 一応、実際に味も確認もしたのじゃが、確かに仄かな甘味はあるんじゃが……

 何というか、後味がちょっと薬の様な風味がしたのじゃ。 


「まぁワシ個人の味覚じゃし、そこは改善するかどうかを相談したいという訳じゃ」


「ふむ……私は気にはなりませんが……」


 ミアン殿が実際に剥かれた果実の一つを食べておるが、気にはならぬようじゃな。

 こればかりは個人個人で差があるから仕方無い。

 後にドミニク殿にも食してもらったのじゃが、此方も問題は無かったので、このまま栽培をして、治療後に飲むドリンクの材料にする事になったのじゃ。




 そして、ドミニク殿が管理しておる諜報部じゃが、順調に各地の情報を集めておる。

 クリファレスは相変わらず、勇者馬鹿が好き放題をしておって、人材の流出が止まらない状況になっておる。

 具体的には、勇者に対して批難した者は、貴族じゃろうが平民じゃろうが構わず処罰されておる為に、不満を持っておる者達はどんどん僻地へと逃亡したり、『逃がし屋』を利用してバーンガイアへと逃げておる。

 クリファレスは、前に逃げたドワーフとエルフを追って来た事があるのじゃが、現在はヴェルシュが動いてそれ所では無くなっておる。

 その中でも気になったのは、勇者の奴が迎撃に出て戻った後、王宮から出て来なくなったらしいのじゃ。

 コレに関してはドミニク殿曰く、追加調査中との事じゃ。


「それにしても、巨大ゴーレムとはのう……」


 ドミニク殿からの調査報告では、ヴェルシュがクリファレスの戦場にゴーレムを投入したと言う話じゃが、理には叶っておる。

 ゴーレムであれば、錬金術師の腕次第じゃが、兵士と違って素材を集めれば、いくらでも作る事は出来る。

 それこそ、大量のゴーレム兵団を作って、圧倒的物量で相手を圧殺する事も可能じゃ。

 ただし、『強化外骨格』を作ったワシからすれば、巨大にする理由が無い。

 まぁ視覚的な圧倒感は出せるじゃろうが、運用するにはかなり問題がある。

 それを解決したという事なんじゃろうが、どうやって解決したのか……


「やはり、無理があると思うか?」


「んー……巨大化させればマナの問題はどうしても切り離せんからのう……」


 兄上も知っての通り、サイズが大きくなれば質量が増えて、それを動かす為のパワーが必要になり、結果的にある程度以上の大きさになると、真面に運用する事は不可能になる。

 ワシが思い付く限りでは、ゴーレムに大量の魔石を埋め込んで無理矢理動かす以外に方法は無いと思うんじゃが、ほぼ使い捨てになるゴーレムにしては贅沢過ぎる。

 ヴェルシュにそれ程の魔石が手に入る様な迷宮でもあるんじゃろうか?


「逆に、どうやれば運用出来んだ?」


「ワシみたいに、マナが無尽蔵にある様な術者が乗り込むとか?」


「……無理だな……」


 ワシの言葉に兄上が溜息を吐いておる。

 しかし、それ以外に解決法は無いと思うのじゃ。


「後は、考えにくいんじゃが……黄金龍殿の様な神獣クラスの魔石を使えば……」


 神獣クラスの魔石なら、膨大なマナを貯め込んだ魔石を持っておるから、手に入れば十分運用可能になるじゃろう。

 しかし、神獣は早々に狩る事など出来ぬから無理じゃろう。

 例えば黄金龍殿であれば、ワシ達でも狩るには相当な無茶をしなければならぬし、下手に手を出せば、国一つは簡単に陥落する。

 それを考えれば、どうやってマナの問題を解決しておるのか、非常に興味がある。

 どっかに転がっておらぬかのう……


 そんな事を考えつつ、ワシは黄金龍殿の角から新しい杖を作っておる。

 基本はいつも使っておる杖なんじゃが、その中心に芯として通す事にしたのじゃ。

 コレで相当にマナの通りが良くなり、ワシが使う魔法も底上げする事が出来る様になったのじゃが、全力で魔法を使う様な相手は早々現れんじゃろう。

 兄上の新しい剣も、ゴゴラ殿の協力によって完成しており、此方も非常識な性能となっておる。

 具体的には、マナと精神力を通すと、表面に蒼く血管の様な模様が浮き上がり、斬撃を飛ばす事が出来る様になっておる。

 しかも、その切れ味は非常識としか言えぬ。

 何せ、ワシが的として用意した強化オリハルコンの丸太を、その斬撃で完全に真っ二つにしたのじゃ。

 それ以外にも、魔法も斬れる為、ワシでも兄上に勝つのは非常に難しくなったのじゃ。


 まぁ周辺地域の地図を書き換える様な、大規模破壊魔法を連発すれば楽勝なんじゃがの。

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