第29話




 米じゃ、コメなのじゃ!

 思っていた物と違ったが、コレは間違いなく米なのじゃ!

 領主の住む街より村に戻り、逸る気持ちを抑えながら、やっと山の小屋に戻ったのじゃ。

 村に到着する前辺りから全速力で走り、山を駆け上がり小屋に到着。

 

 ベヤヤがの。


 そのベヤヤは、ぐったりして庭先に転がっておる。

 うむ、そろそろベヤヤも本格的に強化せんと駄目かのう。

 まぁそれはともかく、米を調理するのじゃ。



 と言っても、まずはコワの実から粒を出さんといかん。

 自前のオリハルコン製ナイフで皮を切って、急遽作ったザルに粒をざらざらーと。

 よく見ると、やはり表面に糠らしき層があるのう。

 通常は、精米という作業を経て白米になるのじゃが、この異世界で精米機などという便利な物は無い!

 ではどうするのか。

 そんなもん作るしかないのじゃ!

 が、今はとにかく米が喰いたいので、魔法でチャチャっと解決するのじゃ。


 糠を取り除く簡単な方法は、米同士を擦り合わせて摩擦で糠層を取り除く事じゃ。

 なので、昔は手で擦り合わせたり、臼と杵で突いたりしていたそうじゃ。

 が、今そんな事をしておったら日が暮れてしまう。

 ワシの手はそこまで大きくは無いのじゃ。

 ベヤヤなら一気に終わらせられそうじゃが、今は無理じゃろうし、糠層どころか粉になりそうじゃ。


 風魔法を応用し、超小型の竜巻を作り出す。

 そして、忘れずにそのミニ竜巻の周囲に結界を展開。

 こうしないと、剥がれた糠が周囲に飛び散るからのう。

 超高速で回転するミニ竜巻に玄米を放り込むと、一気に結界の中が茶色一色になったのじゃ。

 うむ、結界が無かったら酷い事になっておったな。


 そうして精米が終わって、白米と糠に分別し、糠は糠で使い道があるからちゃんと保管しておくのじゃ。

 続けてじゃっかじゃっかと洗米すると、水がどんどん白く濁る。

 それを交換して、じゃっかじゃっかと繰り返す。

 うむうむ、濁りが無くなって来たのう。

 洗米が終わった後、ポーション製作で『ただの水』を作って米に吸水させておる間に、米にとって欠かせない物を作る。

 それは、飯盒である!

 専用の釜を作るのも一興であるが、釜を作るのは流石に時間が掛かるのじゃ。

 いくつもの飯盒を作って、吸水を待つ間に残りの精米を終わらせる。


『で、一体全体何がどうなってんだ』


 お、ベヤヤが回復したのう。

 まぁコレは美味しい料理の下準備みたいなものじゃ。

 上手くいけば、料理のレパートリーが増えるんじゃよ。


『そんな種の中身が美味いのか? それにあのデカイのが不味いとか言ってなかったか?』


「まぁ精米もせずに煮てれば不味いじゃろうな」


 そう、米とは煮る物ではなく炊く物じゃ。

 まぁ種類によっては煮る物もあるのじゃが、このコワの実がどういう種なのかは、実際に試してみんとわからんからのう。

 取り敢えず、いくつか試してみて一番良い塩梅を探すのじゃ。



 そして、目の前で炊かれた米達。

 うーむ、水の量を調整してみたのじゃが、予想以上に難しいのう。

 日本での知識を使って、水の量を普通の米を炊く時と同じにしてみたのじゃが、これじゃと柔い。

 しかし、味は良いので、水の量を少しずつ減らしていくと、丁度米が浸るくらいが丁度良い硬さになったのじゃ。

 失敗した物も、味自体は良いので、一応保管しておくのじゃ。

 病気知らずなワシには不要じゃが、もしかしたら誰かが病気の時にでも食べさせれば良い。

 さて、出来上がった御飯じゃが、このまま食べるのも良いのじゃが、ここはひとつ小細工するのじゃ。


 まずは両手を水で濡らし、炊きあがった御飯をこうして三角に握って……

 おにぎりの完成じゃ!

 これで終わりじゃないのじゃ。

 庭先で火を熾し、その上に金網をセット!

 そして、おにぎりを金網の上に並べ、醤油をぬりぬりしながら焼き上げるのじゃ。

 この醤油の焦げる香ばしい匂い、たまらんのじゃ。


『なんじゃこりゃ?』


「うむ、焼きおにぎりと言う料理じゃ」


 個人的な感想じゃが、醤油の焦げたパリっとした部分が特に美味しいのじゃ。

 不思議そうに見ておったベヤヤも、熱いままの焼きおにぎりを一口で食べておる。

 そして、徐に首に掛けておった鞄から、いつものタレが入った壷を取り出しておった。


『何個か貰っても良いか?』


「まぁ何をしようとしておるのは分かるのじゃが、そんなに数は無いぞ?」


 コワの実もそこまで数は無いのじゃ。

 後でエドガー殿に頼んで、定期的に購入するようにするか、自家栽培を考えねば。

 ベヤヤは予想通りに自前のタレを塗って、焼きおにぎりを作っておったのじゃ。

 ううむ、ただの醤油とは違って、色々と混ぜてあるタレの焦げる香りはまた格別じゃのう。



 これ以降、焼きおにぎりはベヤヤのタレを使う事になり、ベヤヤが定期的におにぎりを要求するようになったのじゃ。

 そして、偶にベヤヤ自身が七輪で焼きおにぎりを作って、食べておる姿が目撃されるようになったのじゃ。

 もちろん、七輪はワシが作った物じゃ。


 しかし、米が手に入った事で料理のレパートリーが増えるのは本当の事じゃ。

 取り敢えず、今日は丼ものでも作るかのう。



 ベヤヤ用の巨大どんぶりに山盛りになったのは、オーク肉にベヤヤの作ったタレを絡めた物を焼き上げた焼肉丼じゃ。

 それがそりゃもう、凄まじい勢いで喰われていくのじゃ。

 ううむ、これは早急にコワの実を手に入れんと、ベヤヤに喰われ尽くされてしまう可能性があるのう。

 じゃが、これは夢が広がるのう。

 そう思うと、謝礼として貰ったのじゃが、料理にデザートにと使える食材じゃからなぁ……

 ワシが公的にやったのは、病気の治療だけじゃし、ちと気持ち的に貰い過ぎな気もするのう。


「よし、謝礼の謝礼と言うのはアレじゃから、今後の為と言う名目で何か送るとしよう!」


『ん? 何かやるのか?』


 ベヤヤが、カラになったどんぶりを舐めながら、此方に気を向けた。

 あの量をもう喰い終わったのか……


「うむ、今後の為に、あの領主とは繋ぎを持っておった方が良いと思ってな」


 話してみた感じ、良識もあるようじゃし、何より色々な所を渡り歩いておっただけに、博学でもあるのじゃ。

 実力も十分あるようじゃしの。

 となれば、何が良いかのう……

 取り敢えず、嫁さんには疲労を多少楽にしてくれるブローチでも作るかの?

 あの領主は……本当に何が良いのか分からんのう……

 武器を送ろうにも戦い方が分からんし、魔法を使うのかすら分からん。

 身体能力を上げるようなアクセサリーでも、と考えたのじゃが、それでは製作者として面白くないのじゃ。


「まぁ明日、村長達に聞いてみるかの」



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