あの子は同期で上官で 女子高生全裸殺人を追う友人以上恋人未満の二人

ひぐらし なく

第1話 発端

 兵庫県警出石署捜査課長の垣田警部は、朝食の最中に署からの電話を受けた。すでに妻の香苗は、やれやれといった表情で握り飯を作り始めている。この先下手をするといつ食事にありつけるかわからない。結婚して二十数年、妻も警察官の生活をよくわかっている。垣田は妻に片手で感謝を伝えた。


「丸山川での河川敷で女性のご遺体が全裸の状態で発見されました、強行犯一係と鑑識担当が臨場します」

 遺体を発見したのは散歩を日課とする老夫婦だという。それを聞いたときに垣田は可哀そうにと思った。これで今後散歩の日課はなくなるに違いないからだ。


 驚いたことに女性の身元はすでに判明していた。ご丁寧に遺体のそばにはきれいにたたんだ服とスマートホン、財布などが残されていたという報告が最初に現場について地域係の巡査から上がっていた。


 ふつう、遺体を全裸にすることの一番の目的は、身元をわからなくすることだ。それなのに身元がわかるものを置いているとなれば、全裸にしたのは単に嗜好性の問題ということになる。もっと端的に言えば犯人は変質者、場合によれば前科があるかもしれない。

 事件は本部一課が仕切ることになるだろうが、現場の課長として垣田なりに考えることがあった。垣田は出勤する旨を伝えて電話を切った。


 被害者の名前は立木加奈、十八歳、豊岡市内の高校に通う三年生だった。死因はひも状のもので首を絞められたいわゆる絞殺、性的暴行の有無については司法解剖の結果を待たねばはっきりしないが、状況からいって被害にあっている可能性は高い。これはマスコミが飛びつくなと思った垣田の予想はあたった。


 その日の昼には署の周りはテレビ局をはじめ、各種のマスコミが殺到することになった。


 女子高生全裸殺人いかにもマスコミ受けしそうな事件である。テレビでは連日コメンテイターたちが勝手なことを言っている。その中には元警察官もいるが、なぜか話はふざけたものばかりだ。


 貴様ら本気かと垣田はつい怒鳴りそうになったが、まあ局の意向もあるのだろう。それに従わなければ仕事がなくなるのかもしれない。


 食べていくのは大変だと同情した。やっぱり俺は定年まで警察にしがみつくの方があっていると思った。


 変質者を当たれば、そんな当初の思惑とは異なり、事件捜査は一向に進展しないまま半年、さらに一年が過ぎた。マスコミはあっという間に興味を失い、やがて世間から忘れ去られるとともに捜査本部も解散、専従班もなくなった。








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