131.9回裏2アウト

 バットを置いてブースを出ると、こんな所で会うなんて奇遇だね、と話しかけられた。その見知った顔に私は僅かな安堵を覚えると同時に、心の奥底で少なからず動揺している自分がいた。


「昔を思い出してさ。それでバッセンに通ってるんだ」と話す彼のはにかんだ表情にもしかしたらなんて軽く期待しながら、けれどそれとは裏腹に「ヨリを戻せるなんて思わないでよね」と突っ撥ねた言い方をしてしまう私が嫌いだった。


「いや、そんなつもりじゃないよ」と彼はどこか寂しそうな顔をした。それを見ないようにしながら、じゃあね、と言って私はその場を後にした。あなたの言う昔に、私がいたと事実があるだけでもう十分なんだと思いながら。

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