91.いつぞやの痛み

 友達から殴られそうになって、思わず「痛い!」って叫んだけれど、実際は寸止めで終わった。


 でもその時、僕が発した「痛い」が、どこかの世界の誰かが痛みを感じている時、耳に入ってしまっていたら、きっとその人の痛みを増幅させてしまったんじゃないのかということを時々考えて、怖くなる。


 僕にとって痛くなかった「痛い」が誰かに、リアルな痛みを伴ってしまうこと。その、残虐性。


 誰に言うともなく、僕は言った。

「痛いの痛いの飛んでいけ」

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