50.むかしむかし

 むかしむかしあるところに、「むかしむかしあるところに」からはじまる物語しか読み聞かせして貰えずに育った子がいました。


「どうして昔のはなしばっかりするの? いまの話をしてよ」

 男の子はお母さんに尋ねました。


「歴史を風化させたらいけないの」


「でも、つくり話でしょ? ガラスの靴も、毒リンゴも人魚もお菓子の家も、現実には存在しない」


「どうして、そのことを……」


「ばぁばが言ってた。法律と時代のせいで、いまは読めなくなっちゃったけどねって。だから、本じゃなくて、おかあさんが知ってることをおしえて」

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