32.夢であれ

 目が覚めると、目の前に不審者がいた。そいつは包丁を持っている。


「命だけは、どうか。助けてください」


「わかった、いいよぉ。じゃあ、命だけは残してあげるよぉ。でもさ、命ってどこにあるのかな」


「えっと」


「脳? 心臓? どこにあるのかなぁ」


 あ、これ道徳の教科書にある「あなたの心はどこにあると思いますか」ってやつだ。だけど、残念ながら道徳に正解は存在しない。結局はその人の倫理観次第。

 道徳では何を答えても正解として認められるが、この場合、言葉通りの意味として受け取ると、命だけは残す……つまり「命のみ」の安全が保証されるだけだ。

 つまり、私の命はない。命というか……、脳だけ、心臓だけが残っていても、人間としての生命活動を維持することができない。


 どうしよう、なんとかして時間を稼ぎたい。

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