チェックメイト




「おばあさんの件はひとまず置いておいて、俺たちがこの手紙に内在している黒い球体を押して、未来に行けばいいっす」

「え?」

「いやいやいや。それは、困るなア」

「「え゛?」」


 中井恵は口元を引き攣らせた。

 開基は目を丸くした。

 顔が二つあるおばあさんが傍らで並走している。

 からだけではなく。

 手の平サイズのぎんくんが自分たちを囲うように無数存在していたからだ。


「「え゛?」」


 いやいやいやいやありえなくない。

 中井恵は絶望した。

 うわあもしかしてぎんくんって分裂機能も搭載されているんっすかね。

 開基はわくわくした。


「チェックメイト、だ」


 顔が二つあるおばあさんの上の顔のおばあさんが、涼しげでありながらも禍々しい笑みを浮かべた時だった。


 な~にがチェックメイトですか。

 顔が二つあるおばあさんの下の顔のおばあさんが呆れた声で言った。


「おば、おば、おばばばばばば。あば。おばばばばばばば」

「あなたが怖がらせるから、過去の私がキャパオーバーしたじゃありませんか?」

「いやいやいや。二つもある顔が同時に別々に話しているからだろうが」


 顔が二つあるおばあさんの上の顔のおばあさんの声が細いダンディな男性のものへと変質した。

 顔が二つあるおばあさんの下の顔のおばあさんの声は、おばあさんのままだった。


「おば、おば、おば、おばっ!」

「つまりあなた方は俺たちの仲間という事でよろしいんっすか?」

「よろしいので、とりあえずかけっこは終わりにしましょうか?」


 白目を剥いている中井恵と、平静な顔のままの開基に、顔が二つあるおばあさんの下の顔のおばあさんがにっこりと笑って、言葉を紡いだ。


 もろもろ説明しますからね。











(2024.6.24)



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