群青の朝顔





「あの」

「んー?」

「げふっ、ごっふ」

「あらあら、大丈夫?」

「大丈夫じゃないです」

「そうよねー。十代後半の私、つまりあなたは運動をサボりにサボっていたものね。私より遅いのも当然よね」

「運動の大切さが骨身にしみます」

「まあまあ。これから頑張りましょうね」

「はい………じゃなくて!」


 前方を軽やかに走るおばあさん(未来の自分らしい)の背中から視線を外して、後方をチラ見すれば、二足歩行四足疾駆可能な変形銀色ロボット、ぎんくんが頭に群青色の朝顔(か、昼顔か、夕顔かは分からないからとにかく朝顔と仮定する)を髪の毛みたいに巻き付けながら、自分たちに向かって無表情で(そもそも表情はないがもうちょっと愛想の良い顔だったような気がする)追いかけて来る。

 七星天道虫を探しに行く為に家を出た直後からずっと。

 ぎんくんの不具合かと思い、企業に回収しに来てもらおうとスマホを使うとしたらまさかの圏外。

 刺客よ。

 おばあさんが言った。

 スマホを使えないようにしているのよ。とも。


「話が違うじゃないですか。私と一緒だったら襲われないんじゃなかったんですか?」

「そう。私はね」

「………私は、ね?」

「そう。未来の私はあなたの傍にいたら刺客の標的から外れるの」

「つまり身代わり?」

「うーん。身代わりじゃないと思うわ。だってあなたが死んだら私も即死だもの」

「えーと。えーと」


 二足歩行だろうが四足疾駆だろうが、ぎんくんの速度はまだまだおばあさんより遅い私にも追いつきそうにはなかったので話せる余裕は、ある。

 かろうじて。

 だってもう横腹が痛い。

 足を止めたい。

 でも脳が止まったらヤバいと緊急信号を出し続けているので、止まれない。


「電気屋のお兄さんから対処方法とか教えてもらわなかったんですか?」

「七星天道虫とあなたの抜け毛を回収したら即未来に戻れるとしか言わなかったわ」

「あーもう役に立たない!」


 必死に周囲を見渡すも、何故か人がひとっこいない。

 いやいやいやいや、住宅街ですよここ誰かいるでしょうに。

 これもあのぎんくんの仕業か。末恐ろしい。


(えーっとえーと電気が弱いの。電気。炎?水?土?絶縁体?ゴム?これ電気を通さないんだっけ。電気を停止させるにはどうすればいいのよ?)


「過去の私」

「はい?」


 切れ気味に返事をすれば、急いだほうがいいわよと言われた。

 速度が上がってきている、と。










(2022.7.3)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る