第9話 何かを埋めた
穴を掘って確かに埋めた
それがなんなのかわかりもせず
未だに掘る場所すらわからず
一体どうしたらいいのか立ちすくみ
夏がもう一度巡る季節になってゆく
近々木々が緑づいて
匂い立つ石鹸の香りとあの日埋めた何かの匂い
私は確かに何かを埋めたのに
未だそれが何かわからず
場所もわからず
記憶は曖昧で
あやふやで
サイダーの泡くらい朧げで
月夜も越して
夏が来るはず
雨が降るさなか 私は何かを埋めた
それがこの世で一番大事な何かだったのか
それがこの世で一番くだらないものか
それがこの世で必要ないから埋めたのか
もはやわからないまま幾月の年月が過ぎ
ようやく酔いどれも
夏草の影に腰を下ろし
白線の内側で鳴き始める蝉時雨
あの子の顔を
瞳の奥を
覗き込んだ夏の小さな胸に落ちた
何かを埋めた
確かに もういらないものかも しれないが
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