第100話

 相手の、佐藤さんのいるダンジョンとリンクしている階段の場所がわかる。それに、耐性バフの種類が絞られるのはこちらとしても有難い。


 だが……。


「悪いが、俺たちは故意に相手を殺すことはない。殺すことになるとすれば、さっきみたいにモンスターコマンドによって人間がモンスターへと変身した場合くらい。俺たちは人間で、敵も人間。いくら敵とはいえ、お前が人間を喰うところは見たくない。だからお前にとってのご馳走はくれてやれない」

「なるほど。なら俺が殺さない程度に喰うっていう条件でいい。それでも渋るなら、あいつらを倒した後起き上がってこないように、特別に俺の力を行使してやってもいい」

「……拘束系のスキル持ちか?」

「拘束もできるってだけだ。主な用途は別で……説明より実践してみせようか。その方がお前らも首を縦に振ってくれやすくなるだろうしな。取り敢えず、ホブゴブリンを1匹下から呼ぶか」


 ナーガは割けてしまいそうなくらい口を大きく開けると、細く長く、勢いが弱めのシャワーに似た鳴き声を発した。


 するとホブゴブリンが1匹、血を吐きながらではあるものの、本当にこの階層まで移動を完了させた。


「よし、じゃあこっちこい――」

「ま、まて、なんでこんなに簡単にここまで来れてるんだ?」

「こんなに人間らしいモンスターがいるっていうことだけでも、驚きで一杯だったりするのに……」

「人間らしいモンスター……。人間に似たホブゴブリン……。もしかすると、人間がモンスターになる現象とは反対に、ダンジョンのモンスターたちは全体的に人間に近くなって……。それで、ここまで生きたままこれたんじゃないかな?仮にそうだとして、サポーターって役割なのに……私、こんなの初めて耳にする。かも」


 随分と静かに俺とナーガの話を聞いていると思っていたが、朱音は流暢に喋り、俺たちに話を持ちかけてきたこいつにただただ驚いていたようだ。


 見た目の雰囲気とは対照的にクロの方が冷静に考察しているのは少し面白い。


「あの……聞いてる? 一也さん」

「あ、ああ。えっと、クロが言う通りモンスターの人間化が原因だとして、佐藤さんの、人間が深く関与するダンジョンならまだしも、なんでこっちのダンジョンでそんなことが。……。滅多にない機会かもしれないから、聞いてみるか。なぁ。お前はその辺りのことについて何か知ってるか?」

「知るわけない。いや、知っていたかもしれないがもう思い出すことはないな。俺はノスタルジアの木に記憶を与えすぎた……。そう、こうやってな」


 質問に即答すると、ナーガはホブゴブリンの肩に手を置きながら、その頬を長い舌で舐めた。


 その直後、ホブゴブリンの足は根に変わり、徐々に全身まで植物に変わっていく。


 これは、何度も見た光景。佐藤さんが曰く『発芽』だったか?

 俺はてっきり、これは佐藤さんにしかできないことだと思っていたが……。


「お前のスキルはノスタルジアの木の操作か?それで、人間を『発芽』させて拘束すると。確かにそれならどれにも負けない拘束強度になるとは思うが……。この拘束方法、人間を元の姿に戻すことができなければ……」

「発芽させた張本人のみ戻すことも可能だ。勿論リスクは負うが。それと、俺のスキルはノスタルジアの木の操作じゃなくて……」


 俺が知っている成長速度より遥かに遅く姿を変えるホブゴブリン。


 それを何か言いかけたナーガは、嬉しそうに噛みつくのだった。

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