第59話 様子
「えっと……『グラスプロック』」
探索者から手を離すと地面に手を突いてスキル名を呟いた。
すると地面から手の形の岩が現れてグーパーグーパーと開いたり閉じたりを繰り返す。
『強制貸出』なんていう言い方してるけどこれって実質スキルを盗んでるって事じゃないのか?
「『貸出』は基本相手と交渉をして期間やその『効果の範囲』を調整出来るんだけど、相手に意識が無かったりする時はこっちがリスクを支払う事で最大2日だけスキルを借りる事が出来るの。勿論貸出だからその間は借りた効果を元の持ち主は使えないし、持ち主が死んでしまったら私も使えなくなっちゃう」
「『効果の範囲』っていうのはどういう事なんだ?」
「例えばだけど、一也さんの魔力弓を借りるとして魔力弓の攻撃バフを使用だけは使えないようにする事が出来るの。こっちとしても丸々借りるとそれなりに魔力を大きく消費してしまうから適材適所で一部分ダケ借りるなんていう事を今後お願いするかもしれない」
「じゃあ結構自由が利くスキルなんだな。ちなみにその今支払ってるリスクってのは?」
「これが分からないの。でも私にとって不利益な事が起こってるのは間違いない、って思う」
それが分からなくてよくそれが出来たな。
って言いたいけど、今回はその効果のお陰で無事にこの探索者を搬送出来そうだからあんまり皮肉になりそうな事を言うのは止めておこう。
「――すみません! 少し退いて頂いてお願いします! ……呼吸はしっかりしてるが意識はない。出来るだけ頭を動かさず担架に! 他に怪我をしている人はいませんか? 不調のある人は一緒に搬送出来ますが――」
「俺達は……佐藤さんは大丈夫?」
「ちょっと擦りむいただけで大丈夫です」
「こっちは大丈夫なので急いで連れて行ってあげてください。スキルはしばらく使えないはずなので、そこは安心してもらって」
「そんな事まで出来るんですね。流石噂の英雄だ。あ、あっとすみません。今回は連絡ありがとうございます。後で探索者ビルで警察の方から事情聴取をされると思いますが……。今の状況だとあっちも忙しすぎて……。とにかく何かあったら窓口から連絡が行くと思います。それでは」
俺達がスキルを試していると、医療班の人達が慌ただしい様子で救急車に似た車から降りてきた。
そして、男性探索者を直ぐに車に乗せると簡単に挨拶を済ませてその場を後にした。
かなり手慣れた様子だった事や警察の話を聞くにやはり、かなり仕事の量が増えているらしい。
「ふぅ。取り敢えず一段落だな。早急に何とかしたい気持ちはあるけど、拓海達があの木をどうにかしないと何も出来ないし……一旦家に戻るか」
「そうだね。早く帰ってゲームしよ!」
「……『システムクリエイト』、展開場所未設定、対象者選択、モンスターの自動発生設定、報酬、階層設定、成長レベル、ふふふふ、何このスキル。これがあれば私だけの――」
「みなみちゃんどうしたの?」
「ひゃっ!! べ、別になんでもないよ! なんでも!」
俺とクロが帰ろうとしているのに、薄気味悪く笑う佐藤さん。
そんな佐藤さんの肩をポンとクロが叩くと佐藤さんは素っ頓狂な声を上げ、いつもの調子に戻った。
俺も一気にレベルが上がった時は動揺したが、佐藤さんも同じような状態かもしれない。
「まぁちょっとすれば落ち着くだろ」
そう思って俺達は家に向かった。
だが佐藤さんの様子はその日一日おかしく、俺はその様子にどこか不安を抱いてしまうのだった。
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