第30話 地上へ

「こ、この先が地上なんですよね」

「そういえば金色スライムの時は特殊な状況下だったから地上に出られたみたいだが、クロはその辺問題ないのか?」

「はい。元々地上に住んではいたはずなので……」

「その地上に住んでたってのが気になるよな。だって俺達のいる世界じゃエルフなんて見かけないぞ」

「それは私も思った。でもエルフだけじゃなくて伝説の生き物の出てくる本とかもあるくらいだから、今は私達の知らないところでひっそり暮らしてるのかもよ」

「……そうなのかいクロちゃん?」

「すみません。どうしてもその辺りの記憶が……。ぼんやりと外の風景がこんなのだったかなって想像は出きるんですけど」

「こら淳! クロちゃんが困ってるでしょ!」

「ああ、思い出そうとすると頭が痛むんだっけ……。すまん。無理させちまって」

「い、いえ、構いません」


 話しに割って入ってきた彩佳と淳のコンビにたじろぐクロ。

 つい聞き過ぎた淳には朱音からお叱りが飛ぶ。


 まだHPは全快じゃないはずだが……タフな奴らだよ。


「――ふぅ……もう地上に出ますね」

「そんなに緊張しなくても今ならエルフだからといって過度に驚くような人は少ないさ。それに何かあれば俺達もいる。行くぞ」


 俺は先陣を切って階段を上がった。

 するとそこには椅子を用意して座り待つ江崎さんと医療班の人、それにマスコミのような人達が階段から間をとった所で数人待っていた。


 この状況でマスコミの人達を入れるなんて事はないと思ったが……まさか俺達が吉報を持ってくるという読みでマスコミを使って探索者達、ダンジョン関係者の炎上を消しに掛かってるのか?

 そうだとしても、ギャンブルが過ぎないか?


「おっ! やっと出てきたぞ!」

「し、質問いいですか?」

「はいはいはい、前もって話した通りこれ以上は近づかないで下さーい。またモンスターが出るかもしれませんし、探索後の探索者は気が立っている事が多々ありますっかり質問に答えて欲しいならこちらの指示があってから行動して下さーい」


 どこか棒読み気味な江崎さん。

 なんだかこの状況を楽しんでいる様にも見える。


「そんじゃあ報告を聞き……。あれあれ、結局『ファースト』の代表達も一緒かい? ってその女の子は誰? 人間……じゃないよね?」


 依頼の結果を聞きながら、それをマスコミの人達に聞かせようと働く江崎さんだったが、俺の後から出てきたクロを見た瞬間、自分の興味が優先してしまったようだ。


「わ、私は、ク、クロ。エルフで……。ダンジョンの異変を解決する為に復活して……11階層の――」

「この子が協力してくれたお陰で金色モンスターの出現原因になっていたモンスターを討伐出来ました。証言はアダマンタイトクラスの探索者3人がいるので、それで事足りるかと。1~10階層までは正常に戻っていますが、それ以降はまだ異常な状態が続いているので侵入しないようにお願いします。報告は以上です。あとクロはまだ地上になれていません。あまり驚かすような事はしないようにお願いします」

「……分かった。報告ありがとう。正式な報告書はメールでまた送ってくれ。さて、ここからは質問を受け付けます。質問のある方挙手して下さい」


 困っている様子のクロを庇っただけなのだが、口調が強めになってしまった所為で空気がピリついた。

 あれだけ食い気味だったマスコミの人達が大人しくポツポツと手を上げる。


「はい、じゃあそこの人」

「●●新聞の浅井です。10階層以降で異常が続いているとの事ですが、未だに帰ってきていない人達はどうなったのでしょうか?」

「そ、それは……」

「ここからは私達がお答えします。お二人は今回の功労者なので先にお休みさせて頂きますね」

「功労者……それって異変の解決、というか一部解消はアダマンタイト探索者ではなくそちらのお二人が――」

「はい。とてつもない速さで成長していて――」

「あ、あの、お休みの前に質問を」


 フォローに入った朱音の余計な一言でマスコミの人達がこっちに迫ってきた。

 本当にこの人達は……


「2人は裏口から帰れ。詳しくはまた窓口で聞かせて貰うからな」

「はい。その時はまたよろしくお願いします。行くぞクロ」

「は、はい」


 こうして俺はクロを外に連れ出すのだった。

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