残虐王は 死神さえも 凌辱す
寄賀あける
第1章 ふたりの王子
1 獅子王 リオネンデ
戦勝祝いの宴は夜通しで行われ、ますます盛り上がりを見せていた。あちらこちらに
そんな下級兵士たちが集められた宴とは別に、王侯貴族が集まる宴は王宮の、庭に面して開け放たれた広間で
下々の騒ぎはここまで届くものの、彼らがここに来られるはずもない。ここに居るのは王侯貴族、彼らがこの宴に列席したいとなれば、相応の武功を立てて
数段高く
中央に大きく間を取り王を囲むのは、やはりこの国の貴族たち、ある者は王の気を引くため、ある者は王に嫌われぬため、またある者は王の力に心酔しているがため、そしてそれ以外の者も、王の
若いとはいえ、決して
獅子王 ―― リオネンデの紋章は雄叫びをあげる獅子の姿だった。
王座を
今宵の宴は前王の時代より小競り合いを繰り返し、手を焼いていた隣国ゴルドントをとうとう制圧し、念願の『海』を手に入れた祝いだった。
ゴルドントはいくつもの堅牢な
そのゴルドント各地に、重臣に
彼らの使命は、長期にわたる戦争によるゴルドント国民の不満分子を組織し、グランデジア本軍の準備が整うのに併せて、各地で同時に蜂起させることにあった。
この
さらにリオネンデは、各地で暴動を起こした民たちの虐殺を、潜り込ませた精鋭たちに命じている。
―― 自国の王に剣を向けた者を生かしておいてもためにはならぬ。リオネンデはそう言ったらしい。まさに虐殺王の本領発揮だと、人々を
そして、その勝利の宴の場、王の御前に集う者たちの中で今、一番注目を集めていたのは一人の踊り子だ。黒髪を振り乱し、しなやかに踊るその姿は確かに他の踊り子と比べてもずば抜けて美しい。下々の集まる場所で踊っているのとは違い、薄物ではあるが肌の露出は多くない。それでも目を引くその動きは、容姿の美しさをさらに引き立てていた。
いったい誰が連れてきた踊り子だろう、貴族たちの興味はそこに向いていた。踊り子であろうと、身元が明らかでなければこの場に
上座にいる若き王は、その踊り子から
踊り子のほうも、
「構わぬ。近寄りたければ来るが良い。なんだったら俺の横に来るか?」
と、その側近を制したのは王リオネンデ本人だった。
やはり思った通り、王は
(あの踊り子を連れてきたのはお
(いや、わしではない。お主かと思っていた)
似たような会話がそこかしこで繰り広げられていく。
王は構わぬと言ったが、踊り子を
思い通りにならない王を煙たがる貴族もいれば、敵国が暗殺者を送り込んで来ないとも限らない。
王が危険にさらされる一番はその寝所だと、ジャッシフは考えていた。いくら剣の腕に覚えがあり、どんなときにも
楽曲のテンポが上がり、踊り子のステップが激しさを増す。
そしてやはり
踊り子が、振り上げた足を王の肩に置いた。
「無礼者っ!」
ジャッシフが叫び、踊り子はすぐに足を王の肩から降ろし、遠ざかる。
「構わぬ。我が肩にその足、乗せたいならば乗せるが良い。おまえの秘所を俺に見せてみろ」
酒瓶からじかに酒を飲みながら、王が薄笑いを浮かべた。
「お
ジャッシフが小さな声で
いったん遠ざかった踊り子が再び王に近づいてくる。ステップを踏み、足を振り上げ振り下ろし、王の前で
「リオネンデ、覚悟」
踊り子の声が小さく
「リオネンデ!」
叫んだのはジャッシフだ。だがそれより先に動いていたのはリオネンデ本人だ。
「馬鹿か、おまえ。
踊り子の耳元でリオネンデが囁く。
肩を狙ってきた足を
身動きも声も封じられているものの、自由になった手を踊り子が振り回し、何とかリオネンデを殴ろうとする。いや、リオネンデの腹や胸を殴っているが、リオネンデが気にする様子は少しもない。それどころがニヤニヤ笑っているだけだ。
「そうだ、秘所を見せろと命じたのだった」
リオネンデが体を起こす。踊り子がリオネンデの急所を
「湯あみの用意を。俺はもう寝所に
踊り子を引き上げながら立ち上がる。
「待て、リオネンデ。その踊り子をどうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、誰かが俺にくれたのだろう? 貰っておくさ」
「おい!」
ジャッシフが声を潜めリオネンデに耳打ちする。
「おまえを殺そうとした。雇い主を特定して処分するべきだ」
見守っていた貴族たちも、ひそひそと囁き合っている。だが大抵は、王が踊り子を押し倒して、秘所を覗き込んだと思っている。やはり王はあの娘を気に入られた、と囁き合っているだけだ。
「フン、ここで聞いたところで、誰が名乗り出る?」
「ならばその女を
「そうだな、じっくり尋問するよ。身体に聞いてやる」
ジャッシフの心配をよそに、
「あとは皆で楽しむが良い」
居並ぶ貴族たちに言い捨てるとリオネンデは、暴れる踊り子を引っ張って広間から出て行ってしまった。
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