第285話 悪夢?

※注意※

 グロ表現、鬱展開に耐性のない方は第286話から続きを読むことを推奨します。

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 目を開けると、俺の部屋の天井が目に映る。

 俺はベッドに寝ていた。


「起きた?」


 その声を聞いて、反射的に涙が出た。

 俺は声の方に顔を向け、そして上体を起こす。


「生きていたのか、エア!」


 いつもの白いワンピース姿の美少女がベッドの隣で椅子に座っていた。

 俺はベッドから飛び出してエアに飛びつき、ギュッと抱きしめた。

 幻ではない。たしかにそこに体がある。


「エスト、前に言ってくれたよね。おまえにれたって。告白してくれたよね」


「ああ、したとも」


 あれはまだ空気操作の絶対化や概念化を手に入れる前のことで、苦労してエアを倒した後のことだ。

 俺はエアに愛の告白をして、エアは恋愛感情が分からないから、それを学んでから返事をすると回答した。


 その後、カケラと戦うために三つの試練を受けた。

 どれも二人で挑戦したが、すごく苦労してどうにかクリアした。

 短いが濃密な期間だった。


「私ね……」


 エアの両腕が俺の背に回されるのが分かった。

 いま、俺とエアは互いに抱きしめ合っている。

 ついにあのときの回答が聞けるのか。思ったよりも早かった。

 そしてこの状況をかんがみると、答えにもかなりの期待が持てる。


「私ね、あなたのこと……好き」


 言葉にならない喜び。

 歓喜。

 こんな気持ちは初めてだ。これが幸福という奴か。

 俺はエアをよりいっそう強く抱きしめ、そしてエアも俺を強く抱きしめ返した。


「ああ、俺も好きだ。絶対に幸せにする。ずっと一緒にいような」


 しばらくこうしていたい。

 俺は目を閉じ、エアの肩にひたいを落とした。

 エアも俺の耳元で愛をささやいてくれる。


「うん。エストのこと、パスタの次くらいに好き」


「……え?」


 突如、左肩に痛みが走った。

 激烈な痛み。

 それはだんだん大きくなる。

 雑食性の動物の平たい歯がグイグイと食い込んで、皮膚を、そして肉を、食い千切った。


「うぎぁあああああああっ!!」


 エアを押しのけようとするが、ガッシリと腰に腕を回されていて逃げられない。すぐ目の前で俺の肩の肉をむさぼり食っている。

 ケチャップに顔を突っ込んだみたいに顔を血で染めたエアが、恍惚こうこつの表情を浮かべてあごを動かしている。


「やめろ! なんでこんな、なんで……」


「一緒になるんでしょ? お腹の中で一緒になろうね」


 魔法が使えない。見渡す限りの空気すべてエアが先に操作リンクを張っており、俺が操作リンクを張れる空気が残っていなかった。

 肩を食い千切られた痛みで体には力が入らない。


「あああああああああっ!」


 今度は右肩を喰われた。

 エアはさっきよりも深くかぶりつき、骨ごと噛み砕いた。

 右腕は支えを失い、ダランと重力にひっぱられる。

 さらに右肩への二口目で右腕がゴトッと床に落ちた。


 先ほど感じた一瞬の幸せがいままでの地獄を忘れさせてくれたが、再び訪れた地獄が拷問の数々を鮮明な記憶として呼び起こす。

 それもダイエットのリバウンドのように、倍になって一気に押し寄せてくる。


「もうやめてくれぇ……もう……やめて……くれぇ……」


 俺は泣きじゃくりながら、エアに体を食い尽くされて死んだ。

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