第200話 きのこ・たけのこ戦争

 連合の中央上空にて、俺はエアと合流した。

 調査の結果、連合では二つの戦争が起こっていることが分かった。その一つが《きのこ・たけのこ戦争》だ。

 その戦争が起きた原因は実にくだらないものだった。キノコとタケノコ、どちらがおいしいか。それを決めるための戦争だったのだ。

 自然からの採集では収穫量に限度があるため、どちらを栽培するかを決めるために、どちらのほうがおいしいのかをはっきりさせなければならないというのだ。


「馬鹿げている。実に馬鹿げている」


「そうね」


 多少、効率が落ちたとしても、両方栽培すればいいだけの話だ。その比率は需要を調査すればいい。


「エア、また光の魔法でモニターを出してくれるか? 声は自分で届ける」


「分かった」


 シミアン王国のときと同じように、《きのこ・たけのこ戦争》に参加している各国全土に光のモニターが出現した。それを見上げる彼らに俺の声が降り注いだ。


「戦争を即刻中止せよ。食の好みが分かれるのは当然のこと。それをどちらかがおいしいのだと決めつけて言い争うなど愚の骨頂だ。他人の嗜好しこうを認め、十人十色の価値観があることを知れ」


 光のモニターを見上げる民衆は動きを止めていたが、モニターが消えると彼らは少しずつ元の行動に戻っていった。

 要するに、争いは収まらなかったのだ。すでに多くの血が流れてしまっているから引き下がれないのかもしれない。

 戦争をする民衆の声をいくつか拾ってくると、戦争の原因はとっくに変わっているようだった。

 もはやこの戦争は報復合戦と化していることは明らかだった。キノコやタケノコの話をしている者など一人もいない。


 俺は再びエアに頼んで光のモニターを出してもらった。


「聞け、諸島連合に属する者たちよ。この俺、ゲス・エストが世界王として命じる。ただちに争いをやめよ。これは法である。これ以後、手を出した者、手を出させた者は単なる殺人者とみなし、即死刑とする」


 一人くらいは公開処刑をせざるを得ないかと覚悟していたが、意外にも彼らはそれぞれの居住域へと退いていった。

 おそらくモニター越しにシミアン王国での光景を目撃したことで、俺の恐ろしさを理解していたのだろう。


「ありがとう、エア。一件落着だ。さて、残りの戦争も止めるぞ」


「うん。ところで、エストはキノコとタケノコ、どっちが好きなの?」


「そんなの、キノコに決まってんだろ。お菓子の話ならともかく、野菜の話なら迷う要素はない。俺はタケノコ特有の辛味と気持ちの悪い硬さが苦手なんだ。対してキノコは甘みがあるし、優しい食感だし、吸い物にもよく合うから好きなんだ」


「ふーん。キノコが好きなのに贔屓ひいきしないのね」


「当然だ。俺は贔屓というものがタケノコなんかよりずっと嫌いだからな。俺の敵派閥はキノコ派でもタケノコ派でもなく、自分の派閥しか認めないと言っている奴らだ」

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