第25話 権能はやはり恐ろしい

「おのれシグマめ……」


 我は魔王城へと戻った後すぐに着替えた。着替えたのだが、着替えたそばから服が透明化してしまうのだ。

 イオタとカッパに権能をかけられた際、どのような方法を取ってもお互いを引き離すことが出来なかったのを思いだす。そのうえで、一つの仮説が我の中に浮かび上がってきた。


 ヤツの透明化させる権能は、服にではなく我自身にかかっておるのではないかということだ。


 その場合、どんなに服を着替えたところで我が着た瞬間に透明になってしまうのだろう。

 その証拠に我が着ている間は透明だった服が、脱いだ瞬間元の姿に戻るのだ。我の仮説は間違っていないだろう。

 

 なんてことをしてくれたのだ!?


 このままでは迂闊に出歩くことも出来ない。

 魔族は皆痴女と言うわけではないのだぞ!?

 まして魔王ともあろう立場で裸のまま出歩くなど絶対にあってはならないのだ!!


「ディアベル、着替え終わったか?」


「……それがだなアリサよ。どうやらヤツの権能は我自身にかけられている可能性が高く、どの服を着ても透明になってしまうのだ」


「え……どうすんだよそれ」


「我にもわからん……」


 仕方無いのでひとまずタオルを巻いておくことにする。タオルは衣服に該当しないのか透明にされることは無かった。同じく下着なども透明にはならないようだ。ヤツがあの液体を失敗だと言っていたことから、一部のものは透明にされないのかもしれない。

 失敗で良かった。何もかも身に付けるものを透明にされてしまっては一切外に出られなくなってしまうからな。


「うお、ディアベルその恰好は……」


「これしかなかったのだ。我はイータの元へ向かうからアリサはしばらく待機しておいてくれ」


「あ、ああわかった。」


 我から目を反らしながらアリサはそう返事をした。胴体部分こそ隠せているものの、露出面積は確かに多い。一刻も早くイータから情報を聞かねば。





「イータよ、訊ねたいことがある」


「どうしたんだぞ魔王様……本当にどうしたんだぞ!?」


 イータはタオル姿の我を見た途端、勢いよく部屋の隅に向かって行った。やや興奮気味のようだが、この際追求しないでおいてやろう。


「透明化の権能を受けてしまってな」


「透明化となると、きっとミューの権能だな。それなら服が透明化してしまうのも納得だぞ。ちなみに解除方法は無く一日待つしか無いぞ」


 またか。またなのか。またもや時間制の効果なのか。 


「……でもミューはそういうことをしないはずだけどな」


「ああ、それなんだが。シグマというヤツが他の神の使いを取り込んだらしい。その中にミューという存在もいたはずだ」


「シグマ……? でもアイツなら確かにやりかねないぞ」


 思い当たる節があるらしく、イータはシグマについて話してくれた。


 シグマは変わり者の多い神の使いの中でも特段狂っていた存在らしい。

 特に人族の作る芸術に興味を持っていたらしく、ヤツが言っていた一糸纏わぬ姿云々の発言もそれが理由なのだろう。


 シグマは常に自分中心に考える性格であったようで、自分の考えた策のためならどのような手を使ってもおかしくは無いとイータは語った。


「ヤツは他の神の使いを取り込んだためか驚異的な再生能力を保有している。我とアリサがどれだけ攻撃をしても倒すことは出来なかった。そこでイータの力を借りたい。ヤツに取り込まれたものの権能を使い、暴走させることは出来ないか?」


「暴走……か? 権能同士を干渉させれば出来なくは無いと思うが、外部からでは難しいんじゃないかと思うぞ」


「そうか……」


 イータでもわからないのではどうしようも無い。せめてもっと情報があれば良いのだが。


 対策が滞ってしまったので何気なく窓の方を見る。すると先ほどまで明るかったはずの外が薄暗くなっていた。

 だが妙だ。曇っているわけでも無く夜になったわけでも無い。それなのに外がいきなり暗くなったのだ。

 外の状況を確認するために窓からのぞいた時、その光景に目を疑った。


 巨大な肉塊の山……シグマが、結界ごと魔族領を包み込もうとしていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る