第37話 琥珀色の
「それにしても、この街の機兵の数、尋常じゃないわね。戦争でも起こす気かしら」
『保持している機兵の数だきゃ多いが、戦争は難しいだろうな。ここに有るのはどれも型落ちのロートルだ。二百年前の大戦の時に放棄された機兵を裏ルートで安く買い叩いたんだろう。雑なメンテのせいでアチコチ錆びついてるから戦力としてマトモに機能するかは怪しいところだな』
二百年前に、聖王国と帝国との間に大きな戦争があったそうだ。その際に、聖王国側が主力機として作ったのが、この街のあちらこちらに放置されているミーレスという機体だ。
戦争が終結するまでに四千機近くも作られ、聖王国の主力機となっていた。さすがに二百年も経った今では型落ではあるが、機兵を所持しない小国や集落であれば、制圧するのは容易だ。
『ここのミーレスは対人戦向けにカスタムされてやがる。恐らくは、対機兵を想定した大規模な戦闘ではなく、機兵を持たない相手を一方的に蹂躙するためにカスタマイズされた機体って感じだ』
リューがいう通り、ここのミーレスの主武装はナパーム、超広域催涙ガス榴弾、ゲリラ制圧用炸裂榴弾……。対機兵ではなく、人の制圧に特化した兵装である。
『こんな八メートルの人型の機体。それだけでも十分な威嚇になるだろうよ』
巨大な人型の物体。人間はそれを本能的に怖ろしいもの、敬うべき者として感じるらしい。それは、人間が本能レベルで刻まれている上位者に対する畏れなのかもしれない。
◇
「今日はロクに情報が得られなかったわね」
『よそ者に警戒してんのが露骨に分かる対応だ。ここの連中、話しかけても貝のように口を閉ざして目すらあわせてくれねぇんだから』
(……それと、ずっと視られている感覚がある。それも、一つではなく複数)
街中の人間から監視されているような感覚がある。
(……被害妄想と思いたいけど、実際に監視されているのは事実みたいね)
魔物であれ人であれ、視線や殺気を感じ取るのが必須能力。黒竜騎士になるために訓練を積んできた私は素人の視線を把握する程度は容易。
街の住民の警戒心が高すぎて、街の中を歩いてもこれ以上の情報は得られなそうだ。まずはこの街の地形を把握できただけで、良しとするか……。
「さすがに疲れたわね。ちょっと、あのお店で一休みしますか」
単に歩き疲れただけではない。この街のピリついた空気に晒されていると、精神的に消耗してくるのだ。
私は街の食堂に入り、適当な席に座る。そこは妙に小綺麗な食堂だった。壁の絵画も高そうな額縁に納められている。何というか、外観からは想像できないほどに儲かっているような感じというか、非常にアンバランスな雰囲気の店内だ。
(……妙に高そうな内装ね。この街の人達が料理にそんなにお金を落としてくれるとは思えないのだけど)
かつてこの街が金の採掘で潤っていた時の名残か、店内の調度品にはふんだんに金が使われている。
「お嬢さん、この街には観光でいらっしゃったのですか?」
「はい。そんなところです」
正直に答える必要もないのでそう答えた。入り口の守衛にも同じような質問をされたことを思いだす。度胸試しにか、この街に観光と訪れようとする物好きも少なくないのだろう。
「なかなか良い趣味をお持ちですね。やはり若い頃はスリルのある旅の方が楽しいですからね。ふふっ。今日はさぞお疲れでしょう。お飲み物をお作りしますね」
私の返事を待たずに男は目の前でシェイカーを振るい、私の前にカクテルをスッと差し出す。
レモネードのように透き通った琥珀色の液体だ。
「……えっと、これは?」
「この黄金のカクテルは領主ロード・シュタイン様からのウェルカム・ドリンク。この街にいらっしゃった観光客の方には無料でおもてなしをするようにと言われておりますので、お代は不要です」
「あの、私お酒飲めないので……、お気持ちは嬉しいのですが、ちょっと……」
「大丈夫ですよ。このカクテルはノンアルコールです。大変人気のカクテルで、一度このカクテルを口にしたら、このカクテルの為にこの街から出たくなくなる。まぁ、そんな評判のカクテルでして」
私はカクテルを唇に傾け……。
……………。
「やれやれこれだから警戒心の薄い馬鹿な女は。……まあ、そういう勇気と蛮勇を勘違いしたマヌケのおかげで、この店はいつまでもお金に困らずに済むので感謝しないといけないかもしれませんね」
「では、控えのみなさん、鴨がネギ背負ってきましたので、地下監獄にお連れ下さい。……かなりの上玉です。キズモノは値が下がるので、くれぐれも手を出さぬようお願いしますよ」
そして私はシュタインガルドの地下監獄へと連れて行かれるのであった。
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