第30話「妹とオカルト」
「お兄ちゃん、髪の毛を一本くれませんか?」
「何を言ってるんだお前は……」
妹の唐突な頼み事に困惑してしまう。
「身代わり人形って知ってますか?」
「もうそれで全部分かったよ! 兄の身代わり人形を作ろうなんて考えるのはやめてくれないかなあ!」
俺に何の恨みがあるというんだ! 人として問題のある行動だぞ!
「じゃあ皮膚の一部でもいいですから……お兄ちゃんの一部を取り込んで完璧な呪物にしたいんですよ!」
「勝手に人を呪物の材料にするな!」
ああもう……コイツに何を言っても無駄なのが分かっていても突っ込まざるを得ない言動をしてくる。いい加減にしてくれ、俺のメンタルはすり減る一方だぞ……
安易に呪物を作るなと言っても効くようなヤツじゃないしさ、精神攻撃をしてくるのは本当に勘弁して欲しい。
「で、なんでそんなものを作ろうとしたんだ? 俺に何か恨みでもあるのか?」
茜は顔に手をあてて少し考えてから答える。
「そうですね……あえて言うなら私を好きになってくれないお兄ちゃんが悪いんですよ」
目から光が消えてぞっとするような表情で俺にそう言う。正直に言って身内じゃなければ間違いなく距離をとるであろう表情をしている。人の感情を操作しようなんて愛情の領域を遙かに超えた所業だ。家族相手にやるようなことではないことだけは確かだ。
「ちなみにお兄ちゃんの自発的な提供がない場合はこっそり収集することになりますがそちらの方がいいですか?」
「呪物を作らないって選択肢はないのか?」
「お兄ちゃんが私に愛情を持って接してくれればやめますよ」
にこやかにそう答える茜だがその表情には言い知れぬ狂気をはらんでいた。俺には一生かけての愛情など安易に宣言できるはずもないので困る。
プチンと髪を一本抜いて茜に渡す。
「あんまり変なことには使うなよ……言うだけ無駄だろうが……」
「分かってるじゃないですか!」
本音を隠す気の一切無い茜に呆れながら、俺は近所にお祓いをやってくれる寺や神社があっただろうかなどと考えていた。呪いなどというものに一向に縁がない生活をしてきたのでそんなサービスをしているところがあるかどうかなど確認したことはなかった。
「ふっふっふ……これで私の『疑似お兄ちゃん二号』は完成するのです!」
一号はどうなったのかと聞く気にはならなかった。どうせロクなことになっているはずがないのだからな。
そしてその日は何事もなく過ぎていった。夜になって寝るときに、なんだか妙に胸が痛んだ。呪いなど信じているはずもないが、朝に妙な話をされたせいで気になってしまうのはしょうがないだろう。呪物という言葉が頭をよぎってからそれを振り払うように無理矢理寝た。その日の夢について詳しく説明をする気は無いのだが、一言だけで語るなら……『サキュバスが出た』という一言でお分かりいただけるだろう。
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