第25話 七人

「……、という訳で、オレ達は最後までスレイさんの手のひらの上にいたようなモノだった訳だ。地図の通りに進んで、その小屋を見つけたら中の物を持って行ってもいいってよ」シゲルを取り囲んでいるのはトーマ、ユウコ、ゴロー、タカコだ。その四人の顔を順番に見つめながらシゲルは言った。

「リュウキ、エレナ。勇者と神官ってのはこの七人の要だからな、よろしく頼むぞ!」シゲルから離れた場所――異世界人にあてがわれた平屋の壁にリュウキはもたれて立っていて、その横にはエレナが立っている。そこに向けてシゲルは叫んだ。リュウキは右手を上げてそれに応える。エレナはぎこちない笑顔をシゲルに向ける。

「シンノスケ、このパーティの休息時間の質は罠士のオマエにかかっている。ネフト王国に無事辿り着くにはオマエの頑張りがすっげえ大事だからな。頼んだぞ!」

 シゲルを囲む四人のすぐ脇に置かれた荷車に軽く腰をかけて佇んでいたシンノスケを見ながら、シゲルはそう声をかけた。

「あぁ。分かっている。森の行軍で僕が役に立つのはそんな時くらいだからね。がんばるよ」シンノスケは静かに答える。シゲルはそれを聞いてニカっと笑う。


「それじゃ、またなー!」一度だけ振り向いて、シゲルはバルバスと共に王都へ歩いて行った。空になった荷車を引いて。


「なによ、一晩くらい泊まっていけばいいのに」ユウコは小さくなっていく背中に向けてポツリとこぼした。『もう二度と会えないかも知れないのに』という言葉は飲み込んだ。

「人質役としての責任もあるんだろうよ。武器アリでオレ達が八人揃っている時間が長いってのはイルゴル王国側からすれば危険極まりないと映って当然だしな」トーマは言う。「イイヤツだ。そして、カッケーな、シゲル」トーマの言葉を受けて、ユウコは小さく微笑む。「そうね」


「リュウキー、シゲルが持ってきてくれた装備、一旦小屋の中に入れようぜー」ゴローがリュウキに声をかける。

「そうだな。そうしよう。それから、装備品と携行品の分配もしてしまおう。明朝にさっと出発できるようにしておこう」リュウキはそう言いながら布の上に並べられた装備品に歩み寄ってきた。革の鞘に入れられたロングソードがリュウキの目に入る。「ユウコ、このロングソードはオレが使ってもいいか?」

「いいよ。私にはそれは重いしね。私はその横の片刃刀がいい」

 リュウキは鞘からそのロングソードを抜いて構えた。重さ、握り具合、刃の厚み、長さ、リュウキはそれらを精緻に感じようと集中する。そして、上段に構えてくうを一振りした。「シゲル、コレを選んでくれたのは、オマエなんだな……」右手から切っ先までを眺めながらリュウキは呟いた。「ありがとう、シゲル」


「罠士の装備ってのは大変なんだねー」シンノスケに声をかけているのはタカコだ。

「う、うん……。戦闘に使うのは杖、っていうよりは棒なんだけど、ナイフとか鎌とか、ロープとかスコップやシャベル等々、罠士としての仕事をするための道具は持ち切れないくらいあるんだよね」

「いつもはどうしてたの?」

「シゲルがけっこう持ってくれてたんだ」

「あー。だから、これだけ色んなものを選んで持ってきてくれたんだ、流石だね、シゲルくんって」

「あ、うん。そうだね……」

 タカコとシンノスケが話しているそこにトーマが割って入ってきた。

「シンノスケの荷物は結構大変なんだよな、いつも。シゲルが抜けた分、オレがいくらか持ってやるよ」そう言って、トーマはニッと笑う。

「あ、うん。ありがとう、トーマ」


「腹へったなー。とりあえず飯にしようぜー。適当でよければオレが作るけど、いいかー」ゴローが声を上げる。

「あ、それじゃ、今日は私が作ろうか?」ユウコが手を上げた。

「ゴロー、頼む」と、トーマ。

「よろしく、ゴロー」と、リュウキ。

「ゴローくん、お願い」と、タカコ。

「ちょっと、みんな、どーゆー意味よー!」

 暮れていく森の夕暮れにユウコの声が響く。その声に驚いたのか、近くの何処かで鳥の羽ばたく音がした。

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