第13話 ゴロー
翼竜が運んだ檻の中にただ一人取り残された男がいた。それは、ニンゲン同士の連携を取らせないように分散して捕えておくというスレイの考えの一環であったのだが、その檻は辛うじて足を延ばして寝られる床面積と、辛うじて真っすぐに立てる高さがあるだけの小さな檻であった。仲間たちが連れていかれた直後は広く感じたものだが、城から少し離れた丘の上に置かれた檻は、檻の外が広く見渡せる分だけ中の者に閉塞感を感じさせた。
「なぁ、兵隊さんよ。オレの仲間はどこに連れていかれたんだ? そして、オレはいつまでここに入れられたままなんだ?」檻の中の男は、自分を監視しているオーク兵に話しかけた。オーク兵は檻の中の男を一瞥するが取り合わない。手に持った槍の間合いを詰める事も遠ざかる事もなく中の男に向き合ったまま立っている。時刻は夕方に差し掛かろうという頃合い、八人の人間がここに連れて来られておよそ丸一日が経とうとしている。
「ちっ。ちょっとくらい話し相手になってくれてもいいだろうに」檻の中の男は毒づきながら王城の方を見やった。すると、こちらに近づいてくる二つの影が目に入った。
「あ、あれは……。スレイとかいうヤツだな。こっちに向かってきているな」
男がそう呟くと、
「スレイ様、だ。オマエごときがスレイ様を呼び捨てにするなど許せん」
監視役のオーク兵は手にした槍を檻の中の男に向ける。
「おっと、ごめんごめん。スレイ、さん、ね。気をつけるよ。だからその槍は下ろしてくれよ」檻の中の男はその長い髪をかき上げながらそう言った。
程なくしてスレイとバルバスは檻の中の男と対峙した。バルバスは足を曲げて地面に座り、腿の上に木の板を、そしてその上に紙を乗せ、書記としての職務を始める。スレイは「監視ご苦労さま。その男が何かやろうとしたのか?槍など向けて。どうした?」と、オーク兵に声をかける。
「いえ、コイツがスレイ様の事を呼び捨てにしたので、つい」
「そうか。私の為に怒ってくれていたのか。ありがとう。しかし、槍を収めてくれ。私たちはこれから、この男と話をする。その間、オマエはゆっくりと休んでくれていい」
「ハッ!」
オーク兵はスレイに一礼し、数歩下がる。
「さて、初めまして。イタクラ・ゴローくんだね。エンチャンター、という事だが、私のこの情報に間違いはあるかな。私の名はスレイ。いくつか話をしにきた」
リュウキの時と同様にスレイは檻の前に立ってゴローを見つめている。中肉中背の長髪の男、ゴローと呼ばれたその男はオーク兵に槍を向けられた時に立ち上がり、槍に対して身構えていたが、オーク兵が下がった事で緊張を解き、力を抜いて立っている。スレイと同程度の身長だ。檻を挟んでスレイとゴローの視線が交錯する。
「一人一人に話をしていたのか?スレイさん。あんた自身が」
ゴローの鷹揚な態度にオーク兵とバルバスは怒りの目を向ける。スレイはそれを察してか、左手の手のひらを彼らに向け「よい。気にするな」と言った。
「その通りだ。貴様らニンゲンを私自身の目でじっくりと見定めてやろうと思ってな。お待たせしてしまったかね、ゴローくん」
「あぁ。狭くて退屈していたからな。待っていたよ。スレイさん。歓迎するよ」
「ニホンという国はどんな国なのだ?」
「あー。やっぱりかー。オレだけこんな丘の上に放って置かれて暇だとは思っていたけど、スレイさんの面談はオレが最後かー」
ゴローはスレイの質問には答えずに言う。が、スレイはその回答を聞きふっと息を漏らすように笑った。
「察しがいいな。そうだ。ゴローくんへの質問は答え合わせの側面が強い。私にとってはな」
「オレ達を分断した上で聞き取り調査を行ったのは、口裏を合わせる時間を作らせない為だな。抜け目がないね。スレイさん」
「褒め言葉として受け取っておこう。そして、答え合わせにはしっかりと付き合ってもらうつもりだが、ゴローくん」
スレイは一旦言葉を区切り、軽く息を吸ってから、ゴローに質問を続けた。
「この世界に転生する直前に会ったという神について、覚えている事を全て話してもらおう」
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