「僕と」

 ~♪

 スマホから流れる目覚ましを聞いて、すでに目が覚めていた体を起こしていつもの日常を繰り返す。家を出ようと玄関へいくと、そこにはただ一つだけ、非日常が置かれていたことに気付いた。僕はいつも使っている黒い折り畳み傘を忘れないようカバンにしまって、あの傘を差して学校に行くことにした。


「――みずのー」

 雨の騒がしい音の中に一つ。声を見つけた。それともう一つ。雨の中駆ける足音だ。

「おはよ」

「ん、おはよ……。あ、傘。ありがと。昨日濡れちゃったでしょ? 大丈夫だった?」

「全然、全然! 困ってそうだったから」

「――ひなー、何してんのー」

「ちょっと待ってー。――それじゃ、ルイくんまた学校で!」

「え、あぁ……」

 この時も、傘を貸してくれたあの時も、何か楽しそうな顔をしていた。


――




「はぁ、今日も雨か……」

 やっぱり今日もモノクロームに世界が映った。

――雨は嫌いだ。

 この季節になるとこんな言葉が口癖になる。雨が降る度に口に出していたような、そんな気もする程。であった。


流依るいくーん! おはよ!」

「ん、おはよ。朝から元気だね」

「そうかなぁ、私は……」


「流依さ、最近よく雨木あまきとよく喋るよな」

「あー、まぁ、そうだね」

「なんかあった?」

「いや、まぁ、傘を借りた。とか?」

「なんだそれ。でもさ、意外な組み合わせだよな。正反対っていうか……」

 そう。少なくともこの時の僕と彼女は正反対な人であったと思う。彼女は基本ずっと明るくて、それでいて頭は良くて、ただたまに、何かぼーっとするときもあって、今になって考えるとこの頃から何か予兆のような、いやきっと、もとよりそうだったのだろう。僕が気づいていなかっただけで……

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