第1章

1-1

 「まりちゃん 砂場に行って遊ぼうよ」って、丈士ひろし君が誘って来た。

 私は、香菜かなちゃんと遊びたかったんだけど、いつも丈士君が誘ってくるので、手を引かれて、ついていってしまうのだ。


 でも、砂場には、私の好きな御読昂およみこう君が居るのだ。だから、近づきたくて、側に寄って行った。いつも、私は、昂君の側に出来るだけ寄って行くのだけど、あんまり、相手をしてもらえないのだ。

 

 この日も、側で遊んでいても、気にもしてもらえない。その間、丈士君がなんだかんだとうるさいぐらいに話しかけてくるのだ。なんだか、ベタベタしてきて、あんまり、うれしいと思って居なかった。これが、昂君なら、そうは思わないんだけどなぁーと思っていた。

 しばらく、遊んでいると、近くで男の子同士がオモチャでもめだした。すると、見ていた昂君が砂を蹴って、そっちに向かった。その時、私の顔に砂がかかってしまったのだ。私のほうをチラッとみたけど、気にも留めないで、男の子達がこつき合っている間に入って、止めていた。

 

 私は、少し間を置いて泣き出した。丈士君が「まりちゃん だいじょうぶ?」となだめていたが、私は、砂がかかったことよりも、私には気にも留めてくれなかった昂君のことが悔しかったのだ。


 遊びの時間が終わった時、丈士君が先生に、さっきのことを告げ口に行った。私が先生に呼ばれて、事情を聴かれたけど、私は、又、泣いていて、答えなかったのだ。そうしたら、先生が昂君を呼んで、注意していたのだ。だけど、昂君は、男の子同士のけんかの間に入って行ったことは、一言も言わないで、黙っていて、私に砂をかけたことだけを認めていたのだ。


 その後、先生に言われてか、私に謝りに来た。とりあえず


「さっきはごめん けどなぁ あれくらいのことで、ぎゃあぎゃあ いうなよー」と、プイっと行ってしまった。私、カチンときて、よけい悲しくなったのだ。


 その時、私の頭の中で『泣け 泣け』という声がした。つられて、本当に泣いてしまった。そーしたら、先生も駆け寄ってきて「昂ちゃん ちゃんと謝ったの― 泣かしちゃったじゃない!」と、叫んでいた。「謝ったよー そいつが泣き虫なんじゃんか」と、昂は知らんぷりしていた。「クソー」と、私は感じていたのだ。


 本当は、もめていた男の子の間に入っていくような昂君のこと、好きなのに・・


 昂君とは、幼稚園のバスの乗り降りが同じ所で、町内が一緒なんだが、お母さん同士はよく話すんだけれども、私達はあまり、話はしたことが無い。向こうは、お姉ちゃんが居て、私は、お兄ちゃんが居て、その二人は、前から仲が良くて、近くの公園で何人かと集まって、よく遊んでいるんだけど、私達は、小さいから仲間に入れてもらえないのだ。だから、よけいに、昂君とは、接する機会も無かった。

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