第37話 勝手な妄想

 そんな情熱的なウェイドの告白も、功を奏さずに終わる事になった。


「ウェイド、あなたの気持ちはとても嬉しいけど、ごめんなさい。隊長の部屋に行かせて」


 引き留めたウェイドの手を申し訳なさそうに振り払ったリゼット。

 あんな熱い想いを込めて引き留められても、リゼットの想いは、隊長の方へまっしぐらなんだ......


 私がリゼットの立場だったら......

 あんな風に引き留められたら、ウェイドへの憧れが冷めた今でも気持ちが揺らいで、ウェイドと付き合うんだけど......


 そんなにも、リゼットは隊長の事を想っているなんて......

 これは、私も是が非でも応援してあげなきゃね!


「隊長の部屋は3棟の7階7号室なの! 階段7階まで上るのだけで、けっこう体力消耗するけど、リゼット頑張って!」


「ありがとう、ティアナ! 女性棟に戻って待っていてね」


 想いが募っているから、そんな風に出来るのかな?

 私なんかよりずっと軽やかな足取りで3棟の階段を上り出したリゼット。


 この結果、グループ内で、リゼットと隊長っていうカップルが誕生になるのかな?

 今までより、仕事中にくっ付いてそうで、目のやり場に困ったりして。


 「あっ、ティアナ」


 ウェイドが、ばつの悪い表情で話しかけて来た。


 何だろう......?

 まさか、リゼットがダメだったからって、次は私とか......?


「言っておくけど、私は、リゼットの代わりなんて、ごめんだから!」


「えっ、いや、そんな事を頼もうとなんて思ってもいないよ」


 うぅぅ......

 早とちりしちゃった、恥ずかしい!


「リゼットが戻ってから伝えて欲しいんだ! リゼットがもしも隊長に断られた時、僕は待っているからって」


 なんだ、そういう事か......


「分かった、伝えといてあげる! でも、その線は薄いかも知れないけど......」


 だって、ウェイドはグループ変わったから知らないでしょうけど、職務中から、あの2人は、既にアツアツなんだから!


 ウェイドって、恋人と居住区が離れたらすぐリゼットに心変わりした人だから、そういう感じで、今度も自分のグループ内の目新しい人にコロコロ移り気な人かと思ったけど......

 今のところ、まだリゼットに一途なんだ。


 容姿端麗だし、私の友達もウェイドに憧れていたから、女の人にモテるはずだけど、リゼットからは見向きもされていないなんて。

 リゼットが万が一、隊長に断られても、隊長とあまりに見た目も性格も能力も違い過ぎるから、リゼットはウェイドの気持ちを受け止める事にはならなそう。

 

 こんな私の周りで、私の同期の入植者達が、既に、恋の事で浮足立っているのに、私は、何だか閑古鳥が鳴いてそうなくらい縁遠いなんて......

 まあ、エリックのおふざけを真に受けて、付き合い出すなんてパターンも無いわけではないけど、そんな軽はずみな事はしたくないもん。

 付き合い出したらすぐ、エリックは、いつもの調子で、また興味の対象を変えてそうだし。

 初めて付き合う相手とは、周りに合わせて、そんな風に流れ的になんてイヤだから!


 なんか、あちこち行ったり来たりして、今日一日だけで、仕事中から、あんな事有ったし、精神的にすごく疲れたな~!


 よくリゼットは、あんなか弱そうな外見しているのに、こんな疲れた後に、恋愛に突き進めるな~って感心しちゃう!


 私も、アーロンのように恋愛に無機質な人になっていきそうな気もしないでもない。


 そんな風に疲れ切っていたから、ホントは、リゼットが戻るの待って、一緒に喜びながら話を聞いてあげるつもりだったのに、眠さの限界で、いつの間にか先に寝ちゃってた......

 リゼットが、いつ戻ったかさえも気付かないで爆睡していた。


 こんな鈍感さで、野営とかの時、私、敵や野獣達から身を守れるのかな?


 リゼットは、もしかして、私が起きていて、隊長との話を聞いてもらいたかったかな?

 それとも、孤独な私に遠慮して、1人で隊長との時間の余韻に浸っていたかったかも知れないし......


 うん、きっと、寝ちゃった私に罪は無いよね!


 先に寝ちゃった分、起きるのは、私が早いかと思ったのに、どういうわけか、リゼット、私より先に起きていた。


 睡眠時間しっかりキープ派のような事を言っていたわりに、そんな削って、どうしたんだろ?

 あっ、そうか、テンション上がり過ぎて、眠れなかったのかも知れない。

 この~、幸せ者が!


「リゼット、おはよ~、早いね」


 私が目覚めた時は、既に、戦闘服に身を包んで、長くて艶やかな髪をとかしていたリゼット。


「おはよう、ティアナ。昨日は色々とありがとう」


 テンション高いかと思ったら、そんな事無く、いつも通りの穏やかな笑顔。

 そっか、喜怒哀楽が出やすいのは、私だけなのかも知れない。


「とんでもない! あっ、先に寝てて、ゴメンね」


「ううん、遅くなったから、いいの」


 えっ、リゼット、帰りは遅くなっていたの?

 そんなに、隊長の部屋に長居していたんだ~!


 両想いの2人が、1つ部屋に長居していたといえば......

 いけない妄想が勝手に膨らんでくよ~!

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