14.実戦! 魔法学講座 2/2

 全周モニターの正面部が新たに複数の色の違う立方体を表示させる。


「この箱がそれぞれ、わたし達がいる空間、エーテルが存在する空間、アストラルが存在する空間、プラーナが存在する空間、その他の未知のエネルギーが存在する空間を表すとするわね」


 それぞれの立方体が重なり合って一つの立方体になる。


「私たちの世界とは別の空間世界は重なり合って存在しているわ。 ただし、何もしないままでは、お互いには認識できない状態よ。 でもなんらかの手段でそれぞれの空間に干渉する方法があるわ。 その仲立ちをするのがそれぞれの触媒よ。 エーテルに干渉するものをエーテル触媒、プラーナに干渉するものをプラーナ触媒という具合ね。 触媒を通してこちらの空間に引き出された魔素は元の空間に帰るために魔法的な現象を起こすの。 それによって、帰還のためのエネルギーを得た魔素は元の空間へ戻れるのよ。 そして、魔素をこちら引っ張る時に消費するエネルギーは、カロリー的なものだったり気合い的なものだったりと諸説あって正確にはわかっていないわ」


「つまり、まず、魔素がこちらへ引き出されるときにエネルギーが使われて、使われたエネルギー分の影響をこちらの空間で起こす。で、収支をゼロにしたら魔素は元の空間へ戻れる。この一連の流れが魔法って認識でオッケー?」


「その認識でいいわ。 あとはそれぞれの空間の間での距離と時間の関係についてだけど……、これは各々の空間に所属する物質は距離と時間において、別の空間の影響は受けないって思っててくれればいいわ」


 モニターが切り替わり、立方体とその隣に小さな丸を映し出した。

 立方体が拡大されていく。その過程で、立方体の内部に無数の点が動いているのが見えてきた。


「立方体を空間Aとするわね。 立方体の中で動き回っている点が、この中に存在する物質や場所を表してると思って。 立方体の外にある点は別の空間そのものを表しているわ。 これを空間Bとするわね」


 立方体の内部の点から細い線が立方体の外にある点へと伸びる。

 やがて、立方体の中で動き回る全ての点と外部の点が繋がった。


「立方体の内部の動き回る点と外部の点を結ぶ線は、立方体の空間内にある場所や物と外部の点で表された空間との間に何らかの魔法的な関係を持ったものを表しているわ。 この線はあくまで関係を表すだけのものだから、線には距離と時間の概念はないと思ってね。 見た通り、空間Aと空間Bの関係はこんな感じで空間Aの中にあるもの全てについて、それがどこにあろうがどこに行こうが、空間Bには関係ないのよ。 これを利用したのが空間収納やジャンプになるわね」


「理屈は大体わかったけど、魔法の行使は賢者の石を使った魔法回路を使うって認識でいいの?」


「貴族や華族は手術で賢者の石を体内に移植するから、その時に魔法をプログラムできる装置も同時に移植するわ。 頭蓋骨の一部を置き換えることが多いかしら。 一般的には道具や兵器に組み込んで、スイッチ操作で起動させる方法が普通ね」


「僕の中にも賢者の石が入ってるってこと?」


「タカちゃんには入ってないはずよ。 でも魔法は使えるってお母様は言ってたわ。 理由は教えてもらえなかったけど、多分、賢者の石と魔導回路の移植なしでも魔法を使える人がいるから、そういうことかもね」


「先天的に魔法に適性がある人もいるんだね」


「ええ、賢者の石……というより、なんらかの原因で魔化された鉄を体内に持ったんだと思うけど、少量でも魔化された鉄があれば……ね?」


「血液と血管……?」


「当たり、正に血筋って感じね。 気功砲のときに個人差があっても一定の呼吸と動きをするでしょう? あれは、血管と血液で可動型の魔法陣を作ってるらしいわよ。 この条件をもつ人達が、道具無しで魔法を使える人よ。 ある意味、人工的だろうと非人工的だろうと関係なく、賢者の石を持つ人は運命に選ばれた人って言えるかもね。 他に何か質問はない?」


「賢者の石って組成的には普通の鉄なんだよね?」


「うーん……ビミョーなのよねぇ。 さっき魔化された鉄が賢者の石って言ったけど、鉄が魔化されたときに、魔素に引っ張られて魔素由来の空間に存在する素粒子も鉄に入り込むらしいのよ。 つまり、賢者の石の中でこちらの空間とあちらの空間が共存している状態にあると言えるわけね。 賢者の石の質量が大きくなるのも、こちらの空間では測定不能な粒子が重力に影響を与えているかららしいわ。 この特徴から、魔化された鉄の周囲は空間の境界があいまいになって、様々な現象を引き起こす。 こんな風に認識されてるわね。 だから答えは、賢者の石は普通の鉄に空間の境界を越えて未知の素粒子が入り込んだものってところかしらね。 あ、桜花の最適化が終わったわね」


「何かしてたの?」


「んふふふ〜、桜花の全身の擬似魔力回路を、タカちゃんの身体に合わせてチューニングしたのよ。 これで、今までの特訓でタカちゃんが習得した魔法は全部使えるわよ? ちょうど近くにおあつらえ向きな的があるから、練習しましょ?」





「アカ姉……アレ、戦艦だよ?」


「戦艦よ」


 全周モニターの一部が拡大モードになり、三十隻弱の戦艦を捕らえている。

 センサーの機能の差なのか、向こうは気付いていないようだ。


「それが何か? って顔しないでよ! コッチから仕掛けたら対外的に不味いでしょ?」


「とりあえず、ヤルのに抵抗感はないみたいで良かったわ。大丈夫よ。もうとっくに戦争状態なんだから、先手必勝よ!」


 桜花と回天のジェネレーターが自動的に戦闘時の出力に変わる。

 燈理の操作だろう。


「タカちゃんも、既に敵対者については散々殺してきてるから、もう大丈夫だと思うけど、あの艦は全部遠隔操作の艦船だから、何をしても相手の命に別状ないわ。 だから思いっきりブッパしても良いからね」


 なんと言ったらいいか、非常にビミョーな励ましだが、確かに習うより慣れた方が早いことも確かだ。

 鷹揚は意識を目の前の獲物に切り替えた。


 ただ、遠隔操作とはいえ、艦船とパイロットは感覚をリンクしているため、昨日スクラップにした艦船のパイロットの心に消えないトラウマを刻み込んでいたことを二人は知らない……。


「いい? 桜花も回天もエーテルリアクターから動力を得ているわ。 タカちゃんが昨日使った陽荷電粒子砲はこのリアクターから現象のみを召喚して使用したものよ。 威力としてはあの後、不法占拠の芙蓉国軍の三分の一を消し飛ばして、残りについても半分を戦闘不能に追い込んで、勢い余って辰の門ゲートを破壊したくらいの打撃力だったわ。 あれを使うと練習にならないから、今回は基本的な魔術のみでいきましょう」


「今,とんでもない情報が入っていた気がするんだけど?」


「済んだことよ。 割り切りましょう。 詳細が知りたければ、この後の反省会で教えてあげる。 今は目の前に集中しましょう」


「絶対、わざと情報を足したよね!」


「まあまあ、とりあえず他より大きいのが三隻あるのが分かるかしら、どれでもいいから一隻選んで、中心から弾き飛ばすイメージを打ち込んでみて。 イメージの途中で抵抗を感じると思うけど、構わずねじ込む感じでやってね」


 鷹揚は言われた通り真ん中の大型艦に魔術イメージを送り込んだ。


 確かに思考が何かに押し返されるような、妙な圧迫感を感じるがそのまま意識を押し込んでゆく。


 やがて、押し返してくる力の中を掘り進む感覚でイメージを押し込み続けると、氷にドライバーをねじ込んでゆくような感触で徐々に浸食が成功しているという感触が返ってくる。


 意識が目的の部位に到達したとき、目標の大型艦を中心に球状の魔法陣が現れた。

 同時に大型艦は弾けるように四散し、残骸が周囲の戦艦を引き裂いて追加の残骸を量産する。


 敵の残機は二十一。


「さすがタカちゃん! イメージもバッチリね。特訓の成果が出ているわ」


「言っとくけど、特訓なんて生易しいものじゃなかったからね! 感覚で使えるようにならないと生き残れなかったから! むしろ結構な回数死んだからね」


「ごめんね、タカちゃん。 特訓の監修はジンバさんと英司さんなの」


「そんな気がしてたよ! チクショー」


「気を取り直して、次いってみましょう。 今度は狙った場所と自分の間の空間すべてに干渉するイメージよ。 一般的な汎用武器はこの方式ね」


 戦艦が艦載機を吐き出した。

 敵機の数が一気に増える。


「艦載機を全部出したわね。 百五機追加。 素敵ね! 練習台が増えたわよ。 当然だけど、小回りが利くから気を付けて。 あと、追加で穀潰しが来たわよ」


 

「天知る、地知る、チルチルミチる! 俺の悪事が知られてる! お茶の間の英雄ジンバ見参!」


——ジンバさん……宇宙の艦隊戦で、なんで甲板に立ってるの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る