反抗期



次の日。

狩人協会本部へと移動する俺と御木本ハンナと忠国伊月。

どうやら俺が裏切らないかどうか監視してるらしい。

そんなものしなくても場所は分かるし、盗聴もしているだろうに。

そもそもそんな事しなくても俺は誰かにこの事を告げたり、こそこそするような真似はしない。


俺を信用してると言っておきながらやはり警戒はしているのだろう。

当たり前だけど、少しだけショックのようなものを受ける。

俺は廊下を歩く。

両隣には挟む様に二人が後ろから歩いていた。

申請受付窓口の前で、椅子に座りくつろぐ百槻与一を見つける。


「…!、九条ちゃんッ」


パッと花が咲くように笑顔を浮かべて走って来た。

そして俺の後ろに居る二人の方へ顔を見せて、獣が怯みそうな怒気迫る表情を浮かべる。


「お前らが俺の敵か?」


百槻与一の殺意が伺える。

彼のそんな表情は、ゲーム本編で霧島を殺された後の性格が豹変した百槻与一以来だ。

それは、化物に対する殺意を漏らしている通称『化物絶対殺すマン』の状態に近かった。


「敵だなんて…私たちは君に敵対なんてしないよ」


「お近づきの印に喰うかい?」


ポテトチップスの袋を近づける。


「いらねーよ」


と冷たい言葉とともに百槻与一は忠国伊月の手に持つポテトチップスを叩いた。


「…食べ物を粗末にするのは悪いじゃねぇか」


笑っているが、目が笑っていない。


「じゃあ拾えよ木偶の坊」


百槻与一が喧嘩腰だ。

今この場で争い事でも始めようと言うのだろうか。


「落ち着けよ」


今にも喧嘩しそうな二人の間に割って入る。


「九条ちゃん、…あぁ、分かってる、争う気はないよ、此処でやった所で意味ないしね…けどな、九条ちゃんに何かあったらお前ら覚えてろよ?」


二人を睨みつけながらも言う。

味方ながら恐ろしい奴だ。

もしかすればこいつが一番の爆弾になるかもしれない。


その後、滞りもなくパートナー解約は終わった。

最後に俺は百槻与一に狩猟奇具を渡す事にした。


「ほら百槻、これ」


「どしたの九条ちゃん、これ」


「これはお前の狩猟奇具だ。俺が預かっていた奴だけど、それ、引き金外されてるから。だから後でメンテナンス…自分でしといてくれよ」


そう言って渡す。

これでなんとか百槻が察してくれれば良いのだが。

いいやこういう状況下の中での察しの良さはピカイチだ。

今はコイツを信じる事だ。

そうして、俺と百槻は別れた。








「九条ちゃん大丈夫かな…あいつらに悪いことされてなきゃいいけど」


そう言いながら百槻与一は技術機関の下へと向かい、そこでメンテナンス用の器具を貸してもらった。

それを使って狩猟奇具の中身を開けていく。


「…む?」


ここで百槻与一は狩猟奇具の中に何かが詰まっているのを察した。

引き金の空いた穴から『何か』を無理やり詰め込まれたようなものだった。

それは紙だった。

紙を取り出してその中身を確認する。


「…なるほどね」


紙の内容を確認して、百槻与一は次に自分がすべきことを考える。


「それじゃあ早速、研究室でカチコミに行ってくるか」


と、九条の白色の狩猟奇具を持ってその場を後にするのだった。








これでなんとか、百槻与一が動いてくれるのを待つだけだ。

自分にできることがあれば、現状を纏めるくらいか。

ずっと脳内で考えていたから、一度紙に纏めたかった。

狩猟協会本部陥落編まではあと74日ぐらい、それで後50日ぐらい過ぎてしまえば階級昇格の打算があるんだっけか?


その間には本来起こるべきと百槻与一のエピソードシナリオがあるがほとんどは百槻与一不在のためにイベントは発生しない。


百槻与一がヒロイン救出イベントを実行したとすれば大体一週間ほどで何かしらの情報が入ってくるだろう。


その間で、色々と策を巡らせようとした時。

そんな時、唐突に部屋に入って来る稲元潤。


「なーんか、こそこそしてそうだなーって思ってきちゃった、おねーさんだよー」


そう言って入って来る。

それに合わせるように慌ててノートを隠す。


「な、何ですか急にッ」


俺は心臓ドキドキとさせながら彼女を見る。


「んー?」


俺の反応に対して彼女は笑みを浮かべた。

それはまるで良いおもちゃでも見つけたような、子供の笑みだ。


「もしかしてエッチな本?おねーさんにも見せて欲しいなー」


この状況は非常にまずい。

もしもこうノートが誰かに見られてしまえばこの情報を頼りに今後の展開が周知されてしまう。

そうなってしまえばこのノートを書いた人間は誰かと調べられ、最終的には俺に到着する。

頭の中ががごちゃごちゃしてきたからどうにかノートに纏めようと思ったのが失敗だった。

これは俺の失態だ。


こんな情報見せられない。

なんとかして追い払わなければ…。


「ほらほら、見せられない?何をしてたの?脱出の計画?それをすればどうなるか分かってるよね?」


しかし何か考えようとすると焦りと緊張で頭の中が白くなっていて、何も考えられない。


「ッ!うる、せぇなッ!!プライベートの時間だろッ!勝手に入って来るんじゃねぇよ!!」



…あっ。

これは、非常にまずい。

相手は曲がりなりにも上司だ。

そんな舐めた口を、効いてしまうなんて、絶対やってはいけない。

彼女の機嫌を損ねてしまえば危ないのは霧島だ。

彼女を傷つけて続けてしまう可能性もある。


「す、すいません…あの」


謝罪の言葉を口にしようと彼女の方を向いた時。

彼女は唖然としていた。

口を大きく開いて、表情を赤らめて涙目を浮かべている。

口元に手が添えられていて、彼女がどんな顔してんのかよく分からなかった。


「は…あ」


彼女は…笑っていた。

驚き、笑っていた。

驚愕し、笑い、そして感動していた。


「…すっごいおとうとぉ~」


弟…?

彼女は一体何に感動しているんだ?


「ウチに対する反抗期ぃ?いいじゃんいいじゃん、弟らしい~!」


なんだ?

この人は、何処に何を見出して感嘆の息を漏らしているんだ?

けど…まあ、弟っぽいセリフを言っていれば、この人にとっては満足なのか。

それでご機嫌になるのなら、俺は弟を演じてやる。


「うるさいな、恥ずかしいからどっか行ってくれ」


「うわぁ!反抗期ぃ!好きぃ!!」


俺を抱き締めて頭を撫でて来る。

弟に興奮してるのか?一気に好感度が上昇していくのが分かった。


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