序盤で死ぬ運命に当たる不遇ヒロインの救い方、救った奴はヤバイ奴だしこのエロゲのヒロインも大概ヤバイ
三流木青二斎無一門
プロローグ
例えば運命が確定している人間がそこにいるとして、その人間を救う事は正しい事であるのか。
その少女を見殺しにすることで今後の未来に対して大きなアドバンテージを得るとすれば、俺はその少女も見殺しにする事が出来るのか。
今、目の当たりにする化物たちの群れ。
その中心には、足を怪我をして動く事の出来ない少女が居た。
その少女は、皆を助ける為に、自らを犠牲にして一人戦い続けた。
けれどもうじきその役目も終わる。
このまま化物たちが少女を襲い捕食を始める。
そして少女は苦痛に顔を歪ませながら死に絶える。
それがこの世界での彼女の最後であった。
もしも俺がその光景を見て彼女を見殺しにすれば、俺はこの世界で有利な立ち位置に属する事が出来るだろう。
少女の死、その光景から目を瞑る事が出来れば、だが。
ふと、少女と俺の目が合った。
まだ逃げ遅れた人間がいるのかと、そう思って俺に向けて口を動かした。
その口調は誰よりも他人を気遣うように、
『逃げて』
の一言だった。
『助けて』でも、『力を貸して』でもない。
最後まで誰かのために思い遣れる少女を、俺はこれから見殺しにする。
「ッ」
気がついていたら動いていた。
地面を蹴って接近し、少女の元へと向かう。
俺はこれから先の、自分に優位となるアドバンテージ全てを失う。
彼女が死ぬことで物語は始まる。
けれど、俺はそれを否定する。
「うぉおおおお!!」
雄叫びをあげ、俺は武器を振り回す。
少女に群がる化物たちを押し退けて、少女の手を強く握り締める。
「逃げるぞッ」
半ば無理矢理に立ち上がらせて、その場から走り出す。
これで未来は変わってしまった。
これからは、俺の知らない物語へと変わるのだ。
―――俺がこの世界をゲームの世界だと知ってから三日後の事だった。
『なれど』シリーズ。
これは仮想世界『
最初は18禁ゲームいわゆるアダルトゲームとして発売された第一作、
『なれど
日本に類似した世界線で化物と呼ばれる生物を殺す狩人たちの物語。
このゲームは熱狂的なファンによって支えられ、現在ではメディア展開を果たしコミカライズやアニメ化にもなった大人気ヒットのゲーム原作である。
ファンの間では略称して『なれど』と呼ばれ、シリーズの第一作目である『なれど狩人は化物を喰らう』は今でも周回プレイする程に俺は気に入っていた。
基本的に『なれど』はヒロインと会話やプレゼントを行い好感度を稼ぐ攻略するシミュレーションゲームだ。
ヒロインと共に過ごし、戦闘を通じてルートを解放。
複数あるエンドからハッピーエンドを目指すゲームなのだが、その中でも不遇なヒロインが存在した。
そのヒロインの名前は
朧に浮かぶ浮雲の様な灰色の髪に儚げな表情を浮かべる彼女はゲームの中でも人気とも言える。
しかし彼女のルートを攻略した者は存在しない。
それも当然だろう。
彼女には個別ルートなど存在しないからだ。
何故ならば彼女はこのゲームのジャンルに問題があった。
基本的にR18ゲームはヒロインとのエッチなシーンやそれ以外にも過激な表現を扱うので年齢制限が釣り上がっている。
『なれど』は基本的にエログロが満載であり、中でも鬱ゲーとも呼ばれる程にヒロインや作中人物が死んでいったり、凌辱や化物の捕食シーンが多く、彼女は『なれど』シリーズの代名詞として、あるシーンが有名であった。
彼女は共通ルートに登場し、その中で無残にも化物に食われて死んでしまうというシーンがある。
別に個別ルートであればヒロインが犯されたり死んでいたり殺されたりするが、霧島恋は共通ルートでの退場。
全て通る道にあるシナリオで、彼女が死んでしまうという事は、どの個別エンディングでも彼女が登場する事はないのだ。
だからかヒロイン候補(笑い)など言われており、公式サイトでもヒロインの一人として登場している筈なのに攻略出来ないからか、まとめサイトや攻略サイトに彼女のルートは存在しない事に対する不満点が多く述べられる。
それでもなお、彼女は『なれど』シリーズでは人気を博しており、彼女の死があったからこそ、この物語をより長く続ける事が出来たのだと思っているファンも存在する。
序盤で彼女は死んでしまうが、しかし重要なポジションにあることは間違いない。
彼女の死を通して主人公の性格や死生観を変える要因となったり、彼女の死によって様々な武器が増えたり、彼女の死は決して無駄ではなかったと言える。
だが、それでも俺は、いまいち彼女の待遇に関して納得出来ないファンの一人であった。
「今日から新しいアニメの発表かー…」
俺は配信サイトをPCで映しながら待機する。
ゲームブランドのチャンネルから配信される発表会。
本日の夜8時からゲームブランドの新しい『なれど』シリーズのアニメが発表されるので、内容を俺は待ち詫びていた。
もしかすれば霧島恋の救済ルートがあるかもしれないと思った為だった。
俺は机の傍に置いてある携帯電話で時間を確認する。
「もう少しか…」
8時になったら生配信が映るのだが…。
発表されるその内容を楽しみにしていた矢先。
急に携帯電話が鳴り出した。
携帯の表示は会社からだった。
俺は嫌な表情を浮かべながらも、出ないワケにはいかないので、携帯電話を操作して指に当てる。
「島田、今大丈夫か?」
島田は俺の苗字だ。
そう言われて俺は内心ため息をつきながらも笑顔を浮かべた。
「はい大丈夫です」
そう答えると、上司が連絡した内容を告げる。
どうやら仕事でトラブルがあったらしく、既に帰宅しているが、俺に手伝って欲しいと言う連絡だった。
二つ返事で了承して携帯電話を切る。
俺は携帯電話を机に置いて、溜息をついた。
「はぁ…行くかぁ」
服を着替える。
最近こういうのが多いなと思いながら、俺は早々に準備を始めた。
せっかく発表会があるのに…仕方がない、後でまとめサイトで確認しよう。
そう思いながら俺はヘルメットを持ってスクーターに乗る。
会社まではスクーターで飛ばして10分程だ。
早めに言って仕事を片付けて戻ろうと思って俺はスクーターのハンドルをひねり加速していく。
信号へと差し掛かった時だった。
対抗車線からトラックがやってくる。
なんだかフラフラとしていて危なっかしいなと思いながら俺はスクーターを走らせていた。
その時だった。
「え?」
突如、トラックが車道を越えて俺の方と向かって来た。
危ない。そう思った時には遅かった。
俺はトラックに轢かれ、体が宙を舞いそのまま地面へと叩きつけられる。
「がはッ…が、ッ」
咳き込み、俺は口から血を吐いた。
どうやら当たりどころが悪かったらしい。
目を細める。
このまま意識が遠のいていく。
それに従いだんだんと体の痛みも薄らぐ、それどころか若干、快楽に似た心地よさを感じた。
腹から逆流する血を吐いて、俺は(暖かいな)と思いながら、そのまま死を見詰める。
これで俺の人生も終わり…つまらない人生の終わりだ…った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます