第54話 節分が普通じゃない
2月3日、我が家ではあるイベントが始まっていた。
もちろん...節分だ。
嫁が2、3日前から豆を買い込んでいたので、薄々俺も気付いていた。何故こうゆう時はいつも父親が犠牲になるのだろうか...鬼嫁って言葉があるのだから、鬼役は嫁でも良いと思う...。
とは言ってもしきたりはしきたり...仕方なく鬼の仮面を付け準備を始める。
虎柄のパンツと金棒をセットで渡されたが、もちろん着るつもりはない、が置いて行く訳にもいかないので荷物を纏めて玄関の戸を開く。
「うがぁぅぅぅぅ」
「え....」
目の前には巨大な何かが居た。
筋骨隆々とした全身は真っ赤で収まりきるはずもない大きな牙が口から飛び出している。
童話の鬼といったらこれだよね、と言われれば想像がつくまさに赤鬼。
それが、玄関を開いたら目の前に居るのだから、俺の気が弱いとかに限らず誰だって腰を抜かす。
俺は驚きすぎて、声も出ず足に力も入らず、ただその場にへたり込んだ。
俺があまりにも遅いので気になったのか嫁は玄関まで見に来た。
地面にへたり込む俺を見ると嫁はにんまりとした表情を浮かべ真衣たちを呼んだ。
豆撒き用の福豆を抱え真衣と由衣は派手に登場した。
「真衣!由衣!前方の鬼に鬼は外よ!!」
『アイ、アイ、サー!!』
元気よく投げられた豆は鬼と俺に命中する。
立てない俺に対し、豆は容赦なく投げられる。
無様な姿を晒しているが、今の俺はお面を付けている以上、立派な鬼...。
可愛そうな俺に対し、同情してくれたのか鬼が俺を助ける様に動き豆を防ぐ。
「一旦、閉めまっせ」
赤鬼は玄関を閉めると呼吸を整える。
「大丈夫でやすか?」
「あぁ...どうも、まさか助けられるなんて...デフォルトさんの配下の方でしょうか?」
「そうでやす、あっしは親分に『お前、一番ぽいから楽しませて来い』と言われ、飛ばされたんでやす」
不憫...。
あの人に振り回される部下は可哀想だなと思う...。
「さて、あっしはどうしましょう」
「どうするべきなんでしょうね...本来の行事としては、悪い物が中に入らないように、と行われる行事なので、今のこの状況こそが正しいはずですが...どうせなら見返してやりたいですね...」
「そう言ってくれると思ってやした、あっし身体の頑丈さには定評がありやしてね、先陣なら任せてくだせぇ」
「そうですか...そういえばお名前を伺ってなかったですね」
「すいやせん、あっしはただの
名前が無い事があるのだろうか...この人にだって、親がいて...きっと子供も...。
そんな赤鬼さんは再び玄関を開くと集中砲火を受けることになった。
鬼は外!!の衝撃で腹に大ダメージを受けた赤鬼さんは力なく倒れた。
走馬灯が流れ赤鬼さんの勇姿が頭に浮かぶ、最初に庇ってくれた事、頑丈さに定評があると意気込んでいたあの笑顔....きっと忘れないよ...。
次の瞬間、俺も意識を手放す事になった。
嫁の豆だけ...威力が....普通...じゃ―――ない...ガクッ
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