第23話 ひのきの棒
「なぁ朝倉」
「なんすか先輩」
「お前装備それでいいの?」
「それってどれっすか」
「その棒だよ棒。剣とか買わなくて良かったんか?」
「これは『ひのきの棒1号』っす」
「いやその辺で拾った棒だろうがよ。ひのきじゃないし……」
「でも勇者なら最初はひのきの棒から始めるものっすよ」
「最初から最強装備とか買えばいいじゃん」
「買えるんすか?最強装備」
「買えんけど」
「じゃあ良いじゃないっすかひのきの棒で。お財布に優しいしエコっすよ」
「エコ」
「お財布に優しいし環境にも優しいっす」
「でも結局モンスターには優しくないから一緒だよエコでもエコじゃなくてもよ」
「はぁ……先輩ロマンが無いっすね~」
「俺は比較的現実主義者だからな。目の前にある現実と誠実に向き合って生きているんでね」
「ふーん、現実主義者の先輩的には手から水が出たり塩が出たりするのはどうなんすか?」
「現実はクソだ」
「直視してくださいよ現実を」
「現実はクソ。直視不可能」
「これが現実主義者のなれの果てっすか。嘆かわしいっす」
「うるせーよ水やりするぞコラ」
「ひゃーこわいこわい、か弱い女の子に何てことしようとするんすか」
「モンスターをワンパンでミンチにする奴のどこがか弱いんだよ」
「ふふんっ、ま、見ててくださいよ、私がか弱くて可憐な乙女だってとこ、見せてあげますよ」
「棒切れでモンスターを殴り殺そうとするのは可憐な乙女のすることじゃないと思うぞ」
「んふふ、間違いないっすね」
「ところでお前が棒切れしか持たないから俺が剣を持つ羽目になってるんだが」
「似合ってますよ先輩」
「似合ってねーよ俺みたいなザコが剣持っててもしょうがないだろうが」
「ひのきの棒1号君に何かあった時は貸して欲しいっす」
「おう。まぁそのために持ってるから良いけどよ。ところでそろそろ何らかのモンスターが草むらから飛び出てくるんじゃないか」
「お、先輩冴えてますねー。さっそく緑の人っすよ」
朝倉がそう言うと、ほどなく草むらから緑の体表をした醜悪なモンスター、ゴブリンが現れた。こちらに気付いて様子を窺っているようだ。
「緑の人……恨みはないっすけど。えいっ」
気の抜けた掛け声とともに朝倉は手に持ったひのきの棒1号君を水平に振りぬいた。ゴブリンの身体は打撃の衝撃でねじれ、打ち据えられた個所と反対の場所から内臓を飛散させ、肉は千切れ体を二つに裂かれて絶命した。
「こっわ」
「なかなか手ごわい相手でしたね先輩」
「ワンパンじゃん。しかもなんで折れてないのその棒」
「折れないように殴っただけですけど」
「折れないように殴っただけ」
「そうっす」
「いや明らかにそのへんで拾った棒に耐えられる衝撃超えてた気がしたんだが?」
「うーん、あれくらいなら、ちょっと気合入れて軽めで殴れば大丈夫ですよ」
「うん?どゆこと?」
「簡単に言うと、折れないように力を加減しながら使ってたって事っす」
「簡単に言い過ぎじゃね?」
「いやー、でも説明難しいんすよねこの感じ。えいっとやってむんっ、なんすよ」
「えいっとやってむん」
「そうっす」
「俺でも出来るか?」
「余裕っす」
「嘘つくなバカ」
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