ジョーンズさん

江國香織の小説に「真昼なのに昏い部屋」というのがある。


日本で英語を教えるジョーンズさんと広い部屋できちんと暮らすことを大切にしている美弥子さんのお話。


日常と感情の機微がリアルでおすすめの作品。

そのなかでも特に好きなジョーンズさんの日常がある。


それは、1人で馴染みの寿司屋に行って、日本酒を飲みながら寿司をつまむこと。そして少し酔って、いい気分で部屋に帰り今日もいい日だったと思うこと。


2日前、転職して初めての給料が出た。


家の近くには引っ越した当初から気になっている寿司屋がある。


憧れのシチュエーションが揃った。


少し残業をした帰り道、恐る恐る寿司屋の戸を開けた。こじんまりとした店内には1人客がぽつぽついて、じんわり暖かかった。


席について日本酒とサザエの壷焼きを注文。


それだけで幸せだった。


いか、かんぱち、小肌、シメサバをつまみ、〆にちらし寿司を頼む。日本酒は2合目に突入していた。


少し酔ってきた脳が、これまでの数ヶ月を振り返り始める。わたしは少し泣いていたのかもしれない。言葉少ない大将が味噌汁を出してくれた。


閉店時間直前にすべてを胃袋に収めて、店を出た。

部屋までの数分、ふらふらとふわふわの間くらいの歩みで進む。


今日はいい日だったと自然に思えた。


そんな今日の1曲。

GLIM SPANKY で『大人になったら』


年齢は大人でもなかなか中身は成長できません

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