40.支援役ロベル 魔王を圧倒する
「四天王はすべて倒した。残るは『魔王・ナイトメア』、ただひとり!」
よし!
「行くぞ! 決着の時だ!」
「はーい。『プロミス・リング』の件は、ちょーっと納得いかないけど」
「目先の問題の決着が、優先ですからねー」
「あとでじっくり話し合い」
みんなの目がちょっと怖い。さすがに決戦前だからな。ピリピリするのは当たり前か。
「みんな。魔王とは、俺ひとりで戦う」
これは、最初から決めていたことだ。
「最後は俺自身の手で、『支援役』の責任を果たしてみせるさ。さっきみんなには、四天王戦でがんばってもらったしな!」
「うん、わかった! お兄様がそう言うなら! あたしは後ろで、お兄様に祈りをささげてるね! 必要ないと思うけど!」
「危なくなったらいつでも出ていきます! なーんて、あなた様にそんな心配は不要ですね! クスッ」
「聖女は世界を救うものに従うのがさだめ。それに、主様に負ける要素はない」
「ああ!」
俺は扉に手をかけ。
「勝つさ!」
ゆっくりと開いた。
そこには無限の闇が広がっていた。
黒。黒。ただひたすらに黒。
その黒の中心にある、ひとつの玉座。
玉座に向かい、俺はまっすぐに歩いていく。
右手の聖剣と左手のオーブ。2つの光が闇を照らしてくれる。
右手に握った聖剣『ビリーヴ・ブレード』。光の刃であらゆるものを切り裂く、伝説の武器。かつての勇者はこの聖剣で、魔王を滅ぼした。
左手に持った『レインボー・オーブ』。『レインボー・タワー』に封印されていた、打倒魔王の必須アイテム。かつての勇者はこのオーブを天にかざすことで、魔王の戦闘力を大幅低下した。
準備は万全だ。
俺は玉座の前にたどり着く。
そこにはひとりの男が、余裕の表情で腰かけていた。
「あんたが、魔王か」
「ふん……。まさか、本当にここまでたどり着くとはな。どうやら余は、お前を見くびっていたようだ」
「まったくだな。準備運動にもならなかった」
言いながら。俺は感覚でわかった。
第一印象と同じだ。
「やっぱり、あんまり強くはないな。これなら俺1人でも何とかなりそうだ」
「フフフフフフ! さすがは聖剣の勇者よ! 恐れ知らずとは、まさにこのことか」
「残念だけど。俺は、昔あんたを倒した『勇者』じゃない。ただの『支援役』だ」
「フフ、謙遜することはない。お前の力は素晴らしいものだ。どうだ? 我が側近にならぬか?」
「お断りだ」
「ふむ。ほうびが欲しいか? いくらでも希望の品を与えるぞ? 望むのなら、征服した世界の半分をお前にまかせてもよい。悪い話ではないと思うがね?」
「前にも誰かに言ったよ。邪悪な野望の支援なんてゴメンだね。目立つのも好きじゃないんだ」
「そうか……残念だ。ならば!」
魔王が玉座から立ち上がった。
「これから余が、お前にとびきりの悪夢を見せてやろう! 虐殺という名の悪夢をな! 確かに余は過去、勇者に不覚を取った! だが! ふたたびこの世によみがえりし今! 余の力は、過去とは比べ物にならぬ!」
グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
魔王の全身が闘気と暗黒のオーラに包まれた。強大なオーラだ。確かに、さっきの四天王とは比べ物にならない。
四天王とは、だけど。
「今の余の力は圧倒的だ! 魔族四天王全員が束になっても! 余にはかなわなかったであろう! 余を倒せる相手など、この世界には存在せぬ! 怖いか? 体が震えるか? フハハハハハハハハ! フハハハハハハハハ! ハーッハッハッハッハァ!」
魔王は高らかに笑う。
「命乞いでもしてみるかね? 聞き入れてやってもかまわんぞ? 苦しまぬように一瞬で消し飛ばしてやろう! 本望であろう? フハハハハハハハハ!」
「いや、そんなつもりも必要もない。でも、聞いておきたいことはある」
俺は疑問をぶつけた。
「あんた。本当に魔王なのか?」
「ハハハハハハハハ……ハ?」
「いやだって。客観的に考えても、力の差は圧倒的だし。広間で声を聞いたときから、ずっと疑問に思ってるんだけど」
「ハハハハハハハハ! 強がらなくてもよい! いつまでもたわごとを言うのは、やめてもらいたいものだな!」
「いやいや。あんまり強くなさそうなヤツに魔王を名乗られたら、誰だって慎重になるよ。俺じゃなくても慎重になる」
「……余に向かってその様なクチを叩くか。この『魔王・ナイトメア』を本気で、あんまり強くなさそう、などと抜かすのか……お前は!」
「影武者じゃないの? それとも、更なるパワーアップ形態を残してるとか? 実はもっと上の、大大大大大魔王的なヤツがいる? 他にも可能性は――」
「だまれ! どこまでもフザけた男だ! いいだろう!」
魔王? は右手に巨大な暗黒のオーラをまとわせると。
「余の力! とくと味わってみるがよい!」
俺に向かって突っ込んで来た。
「まずは小手調べだな」
俺は聖剣とレインボー・オーブを手放した。かるーーーーーく様子見で迎撃だ。
「消え去るがよいわああああぁぁぁぁ!」
魔王? のパンチを。
ガキィィィィィン!
俺は左手のひらで軽く受け止め、右手でジャブを繰り出す。
バキィィィィィィ!
「グワァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
魔王? はカンタンに吹っ飛んだ。
「うぐ……ぐ……ぐぬぬぬぬ……!」
魔王? がよろよろ身を起こす。
「ほら、こんなもんだよ。やっぱりあんた、魔王じゃないだろ? 俺、まだ支援スキルなーんにも使ってないし」
「す、少しはやるではないか! だがこれまでよ!」
魔王? は俺から距離を取ると、呪文を唱えだす。
「死の世界に行くがいいわ! デス・ハレーション!」
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
死の波動が押し寄せてきたが。
ピキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
プラチナメタル・ブレスレットのバリアで、波動は俺に届かない。
「ぬぐっ……!? ならば! ハーデス・テンタクル!」
ビシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
冥界の力を持つ触手が伸びてくるが。
ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
俺は聖剣を拾うと、一閃で触手を斬り飛ばした。
「ぬぐぐぐぐぐぐっ……!? な、ならばっ! ダーク・マター!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
巨大な闇のかたまりが飛んでくるが。
バキイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!
俺はキックで、闇のかたまりをはじき飛ばした。
「なっ……なっ……なっ……なんっ……だとっ!?」
魔王? は次の手を出してこない。驚いたような声を上げるだけだ。
「これで終わりか? それなら」
今度は俺が、魔王? に向かって突っ込んでいく。
「次はこっちの番だな」
俺は一瞬で魔王? に近づき、キックを放つ。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
「ウギャァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
またしても。魔王? はカンタンに吹っ飛んだ。
「ぬぐっ……ぬぐぐぐぐぐ……ぬぐうううううううううううううう……こっ……こんな……はずは……!?」
魔王? は立ち上がるのもやっとの様子だ。パンチとキック、たった一発入れただけなのに。
「いけるいける! いけるよお兄様ーーーー!」
「レベルが違いすぎますね! 勝利はあなた様にあり、です!」
「勝敗は見えた。世界は主様に救われる」
サミー。アンリ。トウナ。みんなの声援を受けながら。
俺は魔王? に言う。
「そろそろ終わりにしようか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます