魔王

モノサイト

プロローグ:もう一つの黎明




「...見えない世界を信じるか。」


俺が物心ついて、初めて目にした一文だった。






俺には、魔法と魔術が全てだった。



彼らは俺に、力と勇気をくれた。

幼い頃に孤児院に入れられ、ひとりぼっちの身の上だって、魔法が有れば何ともなかった。


玩具は魔法、友達は魔法、恋人も魔法。そんな男だった。


なのに、いつのことだろうか。


魔法そんなものなどくだらないと思えるほどの、情熱を見つけてしまったのは。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



...どこからか、笛の音が聞こえてきた。

冷たい秋の風のうそぶく中を、不規則な調べが泳いでいく。


川は満月の光にさざめき、友なる虫も寄ってこない街灯は、寂しそうに並んで静かな橋の路面を照らし出している。



今宵は魔王の宴の時間。静物たちの魂を写す寂しさに満ちた笛の音は、尚も冷たい月に向かって響き続ける。


そして宴は、静かに幕を下ろす。

手に持った笛を少し眺め、男は言った。





「...横笛がよかったなァ...。」




男の視線の先にあったのは、古びたソプラノリコーダーであった。




...物語は、数ヶ月前に遡る。



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