消えた兜 3
「エマが鎧のことを知っているかどうか調べろ、だと?」
クラリアーナとともにフランシスの部屋へ向かうと、そこにはスチュワートとコンラッドとクライブの姿もあった。
勧められてもいないのにエルシーの手を引いて勝手にソファに腰を下ろしたクラリアーナは、自分がここにいてもいいのだろうかと不安になったが、フランシスがエルシーとクラリアーナに茶を用意するようにとメイドに命じたのを聞いてひとまず大丈夫そうだと胸をなでおろす。
フランシスとスチュワートが対面のソファに腰を下ろし、クライブが自然な動作で扉の前へ移動した。他人に聞かせるべき話でないと判断したのか、この部屋に人が近づかないように聞き耳を立てておくようだ。
コンラッドがフランシスとスチュワートの背後に立った。
「エマは拘束されていて、四六時中見張りをつけている。部屋から抜け出して兜を盗むことも、それを被って俺の部屋に侵入することも不可能だぞ。第一ジュリエッタの証言では、男の平均的な身長か、少し低い程度だったとのことだ。エマでは身長が低すぎる」
「そうではありませんわ」
クラリアーナはティーカップに角砂糖を一つ落として、かき混ぜながら言った。蜂蜜も一緒に出されていたが、毒を盛られたばかりなので、あまり使いたくないらしい。
エルシーもなんとなく蜂蜜を避けて、ティーカップに砂糖と少量のミルクを落とした。
「これはわたくしの勘ですけど」
「勘!?」
「まあ、勘を侮ってはいけませんわよ。わたくしはこれで王宮の妃候補たちの情報収集をしているのですから。ちなみにこの勘が外れたことは今のところございませんわ」
「……お前は超能力者か」
はー、とフランシスが嘆息して額を押さえるとクラリアーナはころころと笑った。
「女ならば誰しも持っている勘ですわ」
(え? そうなの!?)
少なくともエルシーはこれまで、そのような「勘」が働いたことはない。つまりは女として劣っているのだろうか。
エルシーが複雑な気分でいると、フランシスがちらりとこちらを見て「お前はそのままでいい」と言った。
「俺は単純なお前がいいから、変にクラリアーナに感化されるな」
これは褒められているのだろうか、それともけなされているのだろうか。
エルシーがますます複雑な気分になると、フランシスの背後でコンラッドが微苦笑を浮かべた。スチュワートもあきれ顔で「そう言う言い方はどうかと思うぞ」とフランシスをたしなめている。
クラリアーナはティーカップに口をつけて、気を取り直したように続けた。
「ともかく、エマが犯人だと言っているわけではありません。ただ、エマが鎧のことを知っていたのかどうか、そしてそれを他人に――例えば、拘束されるまで部屋を担当していたミレーユ様に話したりはしていないかどうか、確認を取っていただきたいんですのよ」
「ミレーユ・フォレスに?」
「そうです。部屋付きのメイドならば、他愛ない会話の一つでそのことを話したとしてもおかしくはないでしょう? 現に、ララもエルシー様に言い伝えなどいろいろなことをお話していますもの。……わたくしの部屋のメイドは、なぜかわたくしを怖がってあまりおしゃべりをしてくださいませんけど」
「そんな派手な格好をしていれば当然だろう!」
今日も今日とてすばらしい胸の谷間を披露しているクラリアーナに、フランシスが鋭くツッコミを入れたが、彼女はそれをスルーしてスチュワートに視線を向けた。
「もしエマがミレーユ様に世間話のついでに鎧のことや戦女神の呪いのことなどを話していたのならば、いよいよわたくしの勘が当たるかもしれませんわ」
「フランシス、構わないだろう?」
「まあ、メイドは叔父上が雇っているんですから、叔父上がいいのならばかまいませんよ。クライブ、調べて来てくれ」
「わかりました」
クライブが頷いて部屋を出て行く。
クライブが扉の前からいなくなったので、コンラッドが先ほどまでクライブがいた場所へ移動した。
クライブが戻ってくる間、クラリアーナは優雅に紅茶を飲んでお菓子を食べているが、もったいぶって何も言わないクラリアーナにフランシスは苛立っているようだった。
スチュワートはクラリアーナとフランシスを交互に見て、「困った子たちだね」と言わんばかりに苦笑している。
クラリアーナの話にはエルシーは必要なかった気がするのだが、どうしてここに連れてこられたのだろうかと、考えたところで答えの出ない疑問を考えていると、クライブが戻ってきた。
時間にして三十分ほどしかたっていないが、もうエマに確認が取れたのだろうか。
「鎧の話ですが、クラリアーナ様の言う通り、ミレーユ・フォレス伯爵令嬢にお話したそうですよ。ほかにも、ええっと、戦女神の呪いとかも話したそうです。ミレーユ様が興味を持たれたので、いろいろ話したらしいですけど、話しすぎて何を話したかは覚えていないそうです。一応、話したかもしれない戦女神の話を聞こうと思ったんですけど、俺が聞いても無意味な気がしたんで、それについてはあとからクラリアーナ様が直接ご確認ください」
「だ、そうだ、クラリアーナ。で、お前の勘とやらは?」
クラリアーナはそれには答えず、ティーカップを置いてにこりと微笑んだ。
「陛下の部屋に侵入したのは、おそらくベリンダ様だと思いますわ」
フランシスは瞠目して、それから首をひねった。
「はあ⁉」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます