第八話 ショッピングデート②

 ICカード店にやって来た。

 「いらっしゃいま……え、エリー様!!?」

 「久しぶりね」

 エリーとこの店主は顔見知りだろうか。

 (……いや、王女が来てたら覚えもするな)

 「で、そこの自然戦士はどちら様?」

 「ユース・Aアルペジオ・ルーヴェ、自然戦士歴一日の新人よ。ユースは初めてだから、私がどんな種類のカードがおすすめか教えてあげるわ」

 エリーはショーウィンドウに並べてあるカードを一つ一つ紹介し始めた。

 「非殺傷任務において『変化~睡眠~』と『変化~麻痺~』のICカードは欠かせないわね。隠密行動では『変化~透明~』、『変化~無音~』、『変化~無探~』(対レーダーステルス)が有効だわ。コマンドレシーバーには、ICカードは一度に三つまでしかセットできないから、状況に応じて使い分けてね」

 「なるほど」

 「後、『睡眠』や『麻痺』、『変化~徹甲~』みたいな戦闘で使えるカードは、武器にセットすると効率よく使えるわよ」

 「武器にもカードをセットできるのか」

 「あとは『変身』系のカードね」

 「え? ほかの自然戦士にも変身できるの?」

 「できないけど、セットした属性の技が使えるわ。勿論、太陽戦士が『氷結』のカードを使って、氷結戦士並みに操れるわけがないけどね。それから自分と同じ属性のカードをセットすると、霊法(炎波など)の威力がかなり上昇するわ」

 「ふーん。じゃあ『変身~太陽~』のカードは買っておこうかな」

 ……そうしてユースは買い物を終えた。

 ここで買ったものは


・変身~太陽~

・変身~水流~

・変身~突風~

・変化~睡眠~

・変化~麻痺~

・変化~透明~

・変化~無音~

・変化~無探~


の計八つで、合計金額は十五万エウロー。

 ユースはそれを現金で支払った。

 店主は「こ、こんな大金一体どこで……」と驚いていた。

 「まあ、ちょっとした臨時収入(皇帝を暗殺から救った報奨金)があったもので……」ユースはそうはぐらかしておいた。



 「さて、ICカードの次は武器調達ね」

 「武器ならもう剣があるけど」

 「それだけじゃ足りないわ」そう言って足早に武器屋へと歩いて行った。

 「……そういえばエリー、なんで僕の任務を手伝ってくれるの?」

 「なんでって、……ユース一人じゃ頼りないって思ったからよ」

 「にしてもだよ?数時間前に会ったばかりで、しかもその時は滅茶苦茶暴言吐いてローマンド滅ぼす宣言してたのに」

 「! あ、あれは……! その、違うの! まさか私のこと知らない人がいるとは思わなかったから……」

 「ずいぶんな自信だな。」

 「テレビとかで私の事見たことないの!?」

 「孤児院にテレビはあったけど、ほとんど年下の子が見てたからな。それにスマートフォンも買えないほど貧乏だったからね、ウチは」

 「そんなに田舎なの!? そりゃあ奴隷商人が身を隠すのに持って来いね」

 「まだ院長が犯人とは決まって……いやそうじゃなくて」

 ユースはエリーの正面に立ちふさがった。

 「僕と最初に会ってから、次に会うまで、つまりワイルド大隊長に城を案内してもらっている間、何があった!?」

 「……何、私の事疑ってんの?」

 「まあ、そんな急に態度が変わるはずないからねぇ」

 「……まあ、いろいろ聞いたのよ、ロキから……」

 そういってエリーはおもむろに語りだした。




 さかのぼること数時間前、エリーがロキに城を案内されていた時だった。

 「エリー殿下、ユース殿の事はお嫌いですか?」

 「何当たり前の事言ってるのよ!あんな奴、嫌いにならないほうがおかしいじゃない!」

 「……ユース殿は、自然戦士になってからまだ一日で、右も左もわからないのです。しかも初日に皇帝の命を救った男として、今やローマンド中で彼の名が知られています。だからユース殿は内心、期待の重圧に苦しんでるんだと思います」

 「……あのユースが?」

 ロキはユースの心情を良く察知していた。

 ユースは、感情を表に出すことがほとんどないが、その裏では自分が置かれた状況を良く思っていなかった。

 幼少期に内戦に巻き込まれて両親を失い、その後は何とか平和に静かに過ごしていたら、突然軍がやってきて軍に入れと言われ、皇帝の命を救ったがために部下を監督する責任を負い、ついには育ての親を捕まえてこいなどと言われたら、さすがのユースも精神的に疲弊するだろう。

 ロキ・Fフランク・ワイルド大隊長は、長く軍人として働き、部下に慕われてきた。

 その経験と鋭い観察力があったからこそ、ユースの心情も察することができたのかもしれない……




 「……で、急に優しくなったというわけか」

 「勘違いしないでよね。私も先輩自然戦士として監督責任があるんだから」

 「君の傘下に入った覚えはないけどね」

 「私は王族よ!?もうちょっと敬ったらどうなの!?」

 「僕は肩書でマウントを取ろうとするやつが嫌いだ」

 「あっそう!私もあんたの事嫌いだから!……ところでどこ行くんだっけ?」

 「武器屋でしょ」

 「そ、そう武器屋!ほら、さっさと行くわよ!」

 二人の距離は、初対面の時から急速に縮まっていた。



 第九話 ショッピングデート③ に続く



 あとがき:「自然戦士」専門用語其の五


「Imagination Creating カード」

 自然戦士のキーアイテム。

 装着者自身の想像エネルギーを満たした「変身」カードや、霊法や武器の性能を強化する「変化」カード、武器そのものをデータ化して、レシーバーを通して再構築する「装備」カードなどがある。

 コマンドレシーバーに装着すると、カードの中にあるエネルギーを放出して、透明で何も書かれていない「虚空」カードとなり、取り出す寸前にエネルギーや武器を再充填する必要がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る