私の知らない彼女の秘密

【い-14】文学フリマ京都_筑紫榛名

(一)

「救急車を呼べ! 早く!」

 四〇〇メートルトラックを走りきり、地面に座って一息ついているときだった。その大きな声が聞こえたのは。

 低い男性の声で、その主は男性教師の下山先生だとすぐにわかった。元々柔道家で過去には柔道の大学選手権で優勝の経験がある人だった。低い割には声が大きいので遠くまでよく通るのだ。

 校庭にいるほとんどの生徒が下山先生の声に気づき、そちらへ向き直った。

 私も立ち上がって声の方を見た。周囲の生徒たちが次々と集まってきている最中で、人垣ができはじめていた。

「誰かが飛び降りたらしい!」

 お調子者のサッカー部員の一年生が、大声でそんなことを言いふらしながら、私のすぐ近くを通って校庭の一番奥の野球部の方へ走っていった。


(続く)

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