第24節 後日談
セシル視点
「どうしたん?」
アミさんが振り向いて、自分の顔を不思議そうにのぞきこみます。
自分はハッと我に返り、右手に持っていたハサミで、アミさんのチリチリになった髪を切るのを再開します。
あの一件から三日が経ち、学校の消火後の片づけが済んで村は落ち着いてきました。もちろん、山に放たれた火はその日のうちに、消火が済みました。
近々木を植えていこうと話が進んでいるらしいです。
「いえ、アミさんの髪をどうやって処理しようかと、悩んでいまして」
「処理って。やっとこのアフロヘアーからも卒業だー」
両手をシートから出してバンザイし出しましたが、右手の包帯が目につきました。
「まだお父さんに許されていないんですね」
「もう嫌になっちゃうよ、ただでさえアフロヘアーも今日まで切っちゃダメって、決まりだったんだから」
アフロヘアーというのは、本来もっとモジャモジャだと、アミさん達からこの前聞きましたが、今のアミさん以上にアフロヘアーというのはすごいのか気になります…。
「危ないことしたんですから当たり前です」
「それはそうだけど」
アミさんはどこか納得がいかないのが、後ろからでもわかりました。
「デロルってどうなったん?」
「今は村の集会所で捕まっていて、今日王国に連れ戻されるらしいです」
「なんで捕まってんの? 確かにあいつはうちらにとっては悪いことしたけど、実際あいつは学校に火つけてないじゃん」
「そうですけど、アミさんと乱闘したのと山に火をつけたってことで、お父さんが国に報告しました」
「そうなんだ」
「どこか納得していないところがあるんですか?」
アミさんは首を横に傾げて、ごにょごにょと言いにくそうに切り出しました。
普段物事を、きっぱり言っている彼女が言葉を
「あたしのせいでデロルが悪人になっちゃったのかなって思ってさ」
アミさんは振り返って話を続けました。
「だって、この国とか村を部族ってのから守ってたんでしょ? あたしが感情的になってあいつと揉めちゃったから」
「この村や国を守っていたのは確かですが、結局はあの人は守るべき村の住人を
前を向くよう促し、アミさんの金色の髪をチョキチョキと切り、髪形を整えました。
「ただいまー」
玄関から声がし、そのままこちらへ何人か歩いてくる音がしました。
「どう?」
如月さんが買い物カゴにたくさんの食料を入れて、部屋に入ります。
「あと少しで切り終わります」
「
如月さんはしみじみとした表情で、アミさんの髪を見つめます。
「普段から子ども達やお父さんの髪を整えていますので、慣れてます」
へぇー、と感嘆の声を出していると歌川さんとクレアくんが部屋に入ってきました。
「似合ってるよー。アミ」
「ほんと? ショート自信なかったんだよね」
「まぁ、アフロヘアーの方が似合っていると思うけど」
床に落ちているチリチリになった髪の毛を拾って、小馬鹿にしたように笑います。
「なんだてめえ、ケンカ売ってんのか?」
「クレアくんどう思う? アミの髪型」
歌川さんの隣にポツンと立っているクレアくんは、少し考えているのか間を空けて答えました。
「似合ってると思う」
「アフロとどっちが?」
歌川さんがニヤニヤしながら聞きます。
「アフロ」
「おい。クソガキ」
「それじゃあ、私達お昼の支度してるからー」
歌川さん達はにこやかに話しながら、食堂へと向かいました。
「クレアさ、雰囲気変わったよね」
「ですね」
アミさんの前髪を整えながら、今まででの彼の生活態度を振り返ります。
人見知りというか誰とも関わりたくないような素振りでした。そして、あんな風に冗談なんて一度も言ったことはなかったと思います。
「アミさん達が来てくれたおかげで彼も変わったと思いますよ」
「まじ? ありがと。でも、一番影響力があったの歌川っしょ。うちらの中でクレアとよく話してたし」
「動かないでください」
アミさんの頭が少しずれたので頭を掴んで正面に向けさせました。
「痛たたたたすんません」
「あと少しで切り終わりますので動かないでください。綺麗に切ってあげますから」
わかった、と言い真剣な表情で微動だもせずに座っています。
すぐに動くと思うので、早めに切ってあげないといけませんね。
「それにしても、学校がなくなっちゃったの残念だなぁ」
「そうなんですか?」
「だって」
「動かないでください」、と厳しく言いました。
最終段階で全体の髪型を見て、綺麗に切れているか判断しながら切っていますので、動かれるとまた判断し直さないといけなくなって、めんどくさいです。
再びアミさんはピシッと
「掃除してたらなんか愛着わいてきちゃってさ」
「これからどうするんですか? 家の手伝いしてこの村で生活しますか?」
「それは嫌だ、うち専業主婦より働きたいし」
アミさんは振り向いて、「ここに住むからにはこの村のためになるようなことしたいし!」、と歯を見せて笑いました。
また注意しようとしましたが、億劫なのでこれでよしにしておきましょう。
「日本には帰らないのですか?」
「それはもちろん帰りたいけど、帰れないかもしれないからさ」
「そこは帰るまでの間とか言ってくださいよ。もう髪は切り終わりましたよ」
アミさんの服の上にかけたシーツを取り払い、片付けを始めます。
「ありがとう!」
今までの髪型と変わり、うなじがスッキリ見えて髪が短くなったことで、
アミさんは、髪の毛を手で何度も様々な箇所を確認して、「似合ってるかな」、と聞いてきましたので「似合っていますよ」、と答えました。
「学校の代わりに何かあるかなー、またあの倉庫みたいなデカい建物あればいいんんだけどね」
「学校で良いならこれどうですか、学校というか学び場ですが」
本棚にアミさん達から借りた本を取り出し表紙を確認して
「これなんてどうですか?」
指を指して本の気になるところを見せました。
指を指した箇所には絵が描いてあって、外で大人の男性が子ども達に教えている姿が描かれていました(アミさん達の世界では、写真というらしいです)。
絵の周りには知らない文字が羅列されていますが、おそらく紹介文だと思います。
「青空教室かー! こんなのも習ったな」
アミさんはどこか懐かしそうに笑いました。
「青空教室ってなんですか?」
「学校とだいたい一緒で外で習える場所」
「最初からこれにしておけば、無駄な労力を
「ぐうの音もでないわ」
アミさんは本を持ってペラペラと、めくり本を閉じました。
「なんでこれ教えている風景だと思ったの? もしかして日本語読めたり」
「読めていたら、トーテム渡していませんって」
「確かに」
にししと笑い席を立あがりました。
「これ歌川達に伝えてくるね! ありがと!」
「わかりました」
アミさんは部屋から走って出ていきましたが、すぐに戻ってきました。
「髪切った後片付けるの忘れてた、手伝うよ」
「大丈夫ですよ、すぐに済みますし如月さん達に知らせてあげてください」
元気よく返事をしてアミさんは再び部屋から飛び出ていきました。
*****
今思い返しますと、あの時。初めてあった時に彼女らを、
この村以外のことは、自分全然知りませんでした。この世界以外のこと、友達ができたらこんな感覚になること、知らなかった。
本当に会えて、良かったと思います。
床に落ちた髪をまとめるのを、やめて本棚に向かいました。
本棚から──1冊取ります。その本は、昔読んでいて自分以外全然読んでいませんでしたが、自分はとても好きな絵本でした。
むかし、むかしアンダルシア王国に他の国から見知らぬ格好、見知らぬ言葉を話す5人の男女が来ました。彼らは、それぞれこの国に知識と武器を与えてくれました。
彼らに褒美として、ご飯や金品を与えましたが、彼らは断りました。
王国は「なぜ断る」、と聞きました。
彼らの中の1人が「私達の国に帰らせてください」、と答えます。
その国の名前は≪和の国≫、という場所です。
自分は、途中まで絵本を読み、閉じました。
「和の国ですか。まさかそんなことはありえませんよね」
絵本を本棚に戻し、床に落ちた髪をまとめ始めました。
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