第4節 猫
誰かが鐘を鳴らした音で、目覚めた。
私が起きた後にアミと如月も起きた。私達は身支度を済ませて、広間へと向かった。
朝食は白米と肉と野菜の炒め物、サラダ、塩スープだった(白米があることに私達日本人は感動した)。
「セシル、昨日私10歳くらいの金髪と黒髪が虎模様みたいに、混じった男の子とあったんだけど、知ってる?」
朝食を食べながら昨日あったことを話す。
「ご飯があるなら、昨日のカレーにいれたかったな」
「美味しいの?」
アミの大きすぎる独り言に太った男の子が素早く反応する。その問いかけに対してアミが答えて男の子が反応する。
その間セシルは黙々と朝食を食べて、口の中に入ったものを飲みこみ終えると口を開いた。
「その子はこの前話しました、ここに来たばかりの子、クレアだと思います」
昨日洗濯物を洗いながら話した、この孤児院に来たばかりで馴染めてない子の話を思い出した。
あの子の名前はクレアというのか。
「あの子、1人で私達にトーテム渡した倉庫の近くで、食べてたよ」
「何度も自分達は一緒に食べたり遊んだりしようとしたんですけど、あの子は逃げちゃうんです」
「私からは逃げなかったし、私好かれてるかも」
ははは、と愛想笑いをする。
セシルは真剣な眼差しで話す。
「優花さんのことが好きになったかもしれませんね。歌川さんがよろしければまたあの子と遊んであげてください」
律儀に頭を下げて頼まれた。私は別に断る理由がないので2つ返事で応えた。
「アミ、優花、如月」
手をパチン、と叩いてクロノさんが私達を呼ぶ。
「なんですか?」
嫌な予感がする。これ、先生から呼び出されるような緊張感に近いな。
「君たちに学校を作ってもらいたいと思う」
「嫌です」
「即答か、酷いなぁ」
「だって私達建設とかできないですよ?」
「0から作ってもらうんじゃなくて、1から2にしてもらいたいんだ」
クロノさんは指を横に振りながら話す。
「倉庫あるじゃないか? それを掃除して学び舎として使えるようにしてもらいたいんだ」
「あんな汚いところ掃除しろってことぉ!」、とアミが大声を出す。
「なんで学校が欲しいんですか? クロノさん村長なんですから自身でお金出して、作ればいいじゃないですか」
如月の言う通り、作る金があるならちゃんとした人を雇って作ればいい。
「お金だって無限じゃないだろ? 人手だって必要だ。そこで在る場所を活用して、無料で人手を使えるからね」
「もしかして、ここに泊めるから掃除をタダでやれってことですか?」
口に食べ物を入れるのをやめて割りこむ。
「おお、察しがいいね」クロノさんはお茶を飲んで引き続き話す。
「君たちの世界は、教育が整っているのだろう? なら、それを活用してこの村の教育制度を整えて欲しい」
「本当の気持ちをお答えください」、とセシルが言う。
「君たちの知識を使って、教育制度やら何かを金儲けに使いたい!」
「正直ですね…」
──金儲けのためなんて、大の大人から聞きたくなかったよ。
アミと如月の顔を横目に見る。2人とも悩んでいるようだった。
「どうする?」2人に話かける。
「やってもいいけど…」
「めんどくさそうだよな」
二人の回答は渋そうだった。手伝うのは、めんどくさい。
「ここは、私が代表して断るよ」
「いいの?」
「すまねぇ、歌川頼む」
私もできることなら、学校にこの子達を行かせて、学校がどんなところか、もっと友達を作らせてあげたい。
これは私の意志で本当はこの子達は学校がどんなところか興味があるだけだったり、働いてこの孤児院に貢献したいって子もいたりするとは思う。それでも、私はこの子達にお世話になったし、どうにかしてあげたい。
でも! タダ働きは違う!
「ごめんなさい、お世話になっていますけどお断りします」
「じゃあ出て行って」
「是非、引き受けさせて頂きたいと思います!!」
「なんだこれ…」
「さすがにこれは酷すぎる」
「まさかこれをさせるために」
結局クロノさんに泊めさせないと脅されて私達はやるしかなかった。
倉庫まで来て、中を見るとガラクタとゴミだらけだった。
中は昼間だというのに入り口から入ってくる光しかなく、見えるだけの量でも骨が折れそうなくらいのガラクタとゴミの山。そして、奥は入り口付近より多くのゴミが溜まっていそうだ。
一体どうしたらこんなふうになるのか…。
「クソ! あのオヤジ!」
アミは壁を蹴りながら怒っていた。
「確かに、イラつくけど。掃除が終われば貸し借りなしって言ってたし、掃除するしかないよー」
私は近くにあった棚から整理することにした。
「歌川の言うとおり片付けるしかないよね」
如月は観念したのかポケットからヘアゴムを取り赤い紙を縛り私とは別の棚を整理し始めた。
「はぁ。やるかー」
私に続いて2人も片付けを始めたが、明かりの少なさと
掃除をしてから、日がすでに沈み始めていた頃に1匹のミケ猫がいつの間にか、倉庫にいた。
「うわぁ! 猫だ! かわいいー!」如月が大きな声を出した。
「如月は、猫ちゃんが好きだからなー」
アミはそこまで興味なさそうに見ている。
「うるさい! 猫~、こっち来て~」
如月は人差し指を招く。
それにつられて、猫が如月に使づいてきた。
「キャー!かわいい!写メとりたーい!」
如月はスカートに入れていたスマホを取りだす。
「殺すぞ」
「「「え?」」」
誰かがハッキリドスのきいた声で「殺すぞ」と呟いた。
「ち、ちょっとアミ! 物騒なこと言わないでよ!」
「うちじゃないわ!」
「それじゃあ、歌川?」
「私じゃないよ」
「それじゃあ、誰!?」
「黙れ」
猫は如月の足に頬をなすりつけながらハッキリ言った。
「やっぱ、犯人猫だろ」
「だよね、猫しかいないよね…」
「そんなわけないでしょ!ね~、猫ちゃん?」
如月は今の状況を受け入れられず、かがんで猫に高い声を出して話しかける。
猫は普段通り「ニャー」、と鳴きながら如月の胸に飛ぶこむ。
「ほーら、やっぱ犯人この猫じゃないんだよ」
如月は白と茶色、黒が混ざった頭の毛を優しく撫でる。
「絶壁」
猫は再びドスのきいた声を出して、如月の胸から離れ、地面に唾を吐いた。
「この猫絶対殺す!!」
如月が猫のことを殴ろうとしていたので、私とアミで必死に止める。
「落ち着いてー!」「待て待て!まだ何のことに対して絶壁かわかんないだろ」
アミは笑いをこらえながら食い止めている。
「あなた達何をふざけているんですか?」
セシルがランタンを持ちながら倉庫の中に入ってきた。もう外はそんなに暗いのか。
「セシル、この猫暴言しか言わないんだけどこの世界の猫ってそういうもんなの?」
私は今も暴れる如月を抑えながら聞く。
猫はセシルの足元に寄り、足に頭を気持ち良さそうに猫なで声を出しながら、こすっている。
「この世界では猫は暴言は吐きませんし、この猫普通じゃないですか」
セシルはしゃがんで猫の頭を撫でている。
「じゃあなんでだー?」
「もしかしたら、うちらがもらったトーテムがおかしいんじゃない?」
アミは如月を抑えのをやめていた。
「確かにありえるかもしれませんね。長い間この倉庫に置きっぱなしだったもんですから」
「でもさ、セシルの言葉は普通に聞こえるよ?」
「猫だけなんじゃね?」
「猫だけだとしたら、もう猫には会いたくない!」
如月はもう落ち着いていて、納得していない様子で発言する。
「皆さん、今日はこれくらいにして夕飯を作るのを手伝ってください」
辺りを見ても猫はもういなくなっていて、私達は倉庫の掃除をやめて、家に戻ることにした。
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