第27話
英雄グリュンドゥの復活により、聖地モリタートは大いに賑わった。
人々は楽器を打ち鳴らし、狭い路地までくまなく踊り歩いた。
だが、その間にも僕らはそれぞれの役割をこなさなければならなかった。
ヘトは兵士たちを統率し、敵の襲来に備えた。このモリタートの都には、ガイストやリードがこの星に持ち込んだ技術のパーツが眠っているという。敵は必ずそれを奪いに来るだろうということだ。
フューレンは使える機械の整備に向かった。破壊を扱う技術は一部の人間にしか教えられておらず、手入れされないまま放置されているものが多いらしい。ガイストは基本的に機械を嫌っている、ということも感じられる。
忘れかけていたが、ヴェルタはちゃんと治療を受けていた。なぜ撃ったのかを聞いたところ、「味方ということを示さずに入ってきたからさ」とガイストには答えられた。フューレンもここまで飛行機で来るのは初めてなので、着陸するときに示すべきことを知らなかったようだ。まあ、例えけががなくとも、ヴェルタには特別な役割を期待することはできなかったろう。
僕はというと、おそらく一番困難な役割を担ってしまった。大型船データの出力である。僕自身に建造の技術はないが、マザータウンの中には船の設計図がある。それを目に見える形にすればいいのだが、これが大変だった。ここの人々は紙を持たず、さらには文字すら持たないのだ。唯一あるのは縄の結び目によって情報を伝える「縄法」だけ。それも読解できるのは一部の専門家だけだ。それではこれまで技術はどのように伝えられてきたのかと思ったが、ガイストが一人にイメージを送り込み、その人が砂の上に絵を描き、別の一人がその情報を言葉にして、また別の一人が縄法で刻んでいったという。おそらくそのようなことから地上絵へとつながる技術は発達したのだろうが、素早く仕事をこなすという観点からは非常に困ったやり方だ。
「これでは設計図だけで一月かかりますよ」
「だいたいのものは一年近くかかってんだが」
ガイストも困り顔だ。
いろいろと考えたうえで、僕はまず樵を一人借りた。そして山に入り、できるだけ大きな木を切り出してくる。モリタートに持ち帰り、それをできるだけ平らな面が大きくなるように切ってもらった。切り口を鑢で磨き、即席のキャンパス完成だ。
次に、彫刻家を借りる。まずは僕が、できるだけイメージに忠実に、白い砂で木のキャンパスに線を引いていく。微調整を繰り返し、納得の行ったところで線を彫っていかせる。正確にデータを写すことはできないが、とにかく多くの人に同じイメージを伝えられなければ、と考えた。
字がないことには大いに悩まされた。数字もないのだから、正確に寸法を伝えるのが大変になる。縄法を使用しても、一部の人しか解読できないのでは意味がない。これまでは解読専門家が中間に立って淡々と作業を進めていたらしいが、それでは僕らは海の底に沈んでしまう。そこで僕は、数字を発明するという荒業を試すしかなかった。ここの人々は十進法で数えていたので、まずは一から十までを決めることにした。棒の本数で示すなどが簡単なのだろうが、それではスペースを取りすぎる。かといって僕らが使っている数字をいきなり覚えさせるというのも、文字自体を知らない人々にはきついと考えた。そこで変則的だが、棒と動物で数を表すことにした。1は\で示し、2は鳥の絵、4は獣の絵、6は虫の絵、8は蜘蛛の絵。そしてそれぞれの絵の上に\を付けるとプラス1の数字、つまり3、5、7、9になる。そして0を―とし、一つの数字を□で囲むことにした。基本は足の本数だということを徹底して教え込んだ。実際には人々の理解力は素晴らしく、普通の数字でも良かったと後悔することになった。
船の設計図と同時に、必要な部品の図面も作らなければならなかった。幸いにもここの人々は金属の製錬技術に長けていたので、図面と簡単な指示があれば必要な部品をすぐに作ることができた。そして驚いたことに、モリタートの人々は自ら図面製作の新しい手法を開発していった。そういえば、人間というのはロボットと違い脳のスペック自体は昔からほとんど変わらず、賢さというのは知識を知るというきっかけがあるか否かによってのみ左右される、という話だった。たとえ古代人であろうと、現代の知識を知るきっかけがあれば、現代人と同等の思考ができるということなのだ。おかげで作業は予想よりもはかどりそうだった。
とはいえ初めての船の建造には困難が多く待ち受けていた。まずは、制作場所だ。平らで広い場所が必要だが、目立ってもいけない。できるだけ敵に知られずに船を造りたかった。そして、街から遠すぎてもいけない。造りに通うのが大変だし、いざという時にすぐ乗りこめなくてはいけない。条件に完全に当てはまるところはなかったので、制作場所を造成するところから始めなければならなくなった。崖に囲まれた平地の木を切り、岩を取り除き、道を整備する。それほど多くない人手だが、驚くほど急ピッチで作業は進んでいった。宇宙空間で開拓していたというガイストたちの技術が生かされたのだ。
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