第18話

 まだ何かフューレンが言い返そうと口を開けたとき、大きな爆発音が響き渡った。

「あれは……」

「なんなんですか」

「ギャトリング……」

「ギャトリング?」

 聞いたことのない名前だった。言語体系から推測できない意味の音構成ということは、外部由来のものなのだろう。

「……族長は決断された。この村は放棄される」

「放棄?」

「そうだ。この村を捨ててでも……守るべきものがある」

 櫓から現れた、近代兵器をも超えたようなピカピカとした大砲。砲身は赤く、それほど長くはない。

「あんなもの……扱えるんですか」

「無理だ。あれは、諸刃の剣」

 爆発音が再び。発射されたのは見たこともない、異様な弾だ。先が尖っていて、回転しながら分裂して四方に飛んでいく。強力な炸裂段のようなものか。あわてて敵も退散しているが、村の建物自体も破壊されてしまっている。

「もっとスマートなものは……」

「私たちには開発する技術がないんだ。だから、族長が持ち出せた技術しか使えない。その中で実戦投入可能なのはあれだけだった」

「開発する……技術がない?」

「そう……遺産しか、使えない」

 合点がいった。もともとの使用目的など関係なしに、目的を作れそうなものだけを使っているのだ。恐竜といい兵器といい、この世界はまるで別の世界に侵食されているかのようだ。いやまあ、僕が造ったのだから、その侵食の主体は僕自身だとも言えるのだが。

 敵の予想の範疇になかったのか、戦況は混沌としてきた。指揮系統は混乱しているが、村の戦力もただ一個だけ、一気に逆転とまでは至っていない。

「族長は、技術者ではなかった、そういうことですか」

「え? ……考えたことがなかった」

「彼らにも役割分担があるんでしょうね。族長は製作側の人間なんでしょう」

「今はそんなことを分析している場合じゃ……」

「統合したら、完成品ができる、そういう可能性があるんですね」

「……」

「それは何か……知っているんですか」

「……私は知らない」

「誰も知らない?」

「……たぶん」

 この世界のパズル、そのピースが次第に見え始めてきた気がする。全ての異質さは、族長と同種の者たちによる外圧によって生じたものだ。それがコンピューターのバグなのか、世界にはありがちな要素なのかは分からない。ただ、この世界はそうなのだ、と割り切るしかないだろう。

 そして、僕は自分にとって一番大事なことを考えている。わざわざこの世界に来たのは、謎を知るためではない。メンテナンスできる者を探すためだ。

 そのレベルは、存在する。

 人間は造りだすことはできないが、維持することはできている。おそらくまったく未知のものであったろう機械に対して、メンテナンスを施せているのだ。これならばロボットをメンテナンスすることもできるのではないか。

「あっ」

「あれは」

 それは、飛行機だった。初見ではないので、あること自体には驚かない。しかし、その形は異様過ぎた。翼の下には二本の筒状の何か、見たこともない細長いものがくっついている。先は赤く光っていて、見た目はたばこのようだ。

「見たことが……」

 まったく想像のつかない動力だった。機体は空中でほぼ停止している。エネルギーの方向性が理解不能だ。

「だめだ、あれを操縦できるのは……」

 攻撃をする様子はない。戦闘機ではないのか。そして、攻撃されてもいない。得体が知られていないからか、知られているので捕獲されようとしているのか。

「いくぞ」

「えっ」

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