君の太陽を恋心で燃やしてしまいたい

モレリア

出会いの日 快晴

第1話 出会いの日 快晴①

 ☂ 天空あまぞら陽葵はるき ☂


 人の心や感情はまるで天気のようだ。

 ずっと同じなんてことはない。

 晴れているのであればいつかは雲がかかり、太陽に陰りができて雨がやがて降る。


 人の心や感情はまるで天気のようだ。

 天気感情をどうこうしようなんてできない。

 そんなのはおこがましいことだ。


 変わるから人は間違う。

 自分にはどうしようもできないから間違う。


 でも、もし人の感情が天気のように浮かび上がるなら。

 間違わないかもしれない。


 でも、そんなのは――


 ただ疲れるだけだ。


 ****


 穏やかな春の陽気に包まれたGW直前の4月下旬。

 太陽が真南に位置し、直下を強く照らす。

 学校の中庭にできた木陰に腰を下ろし、本を開く。


 本は素晴らしい。情報がすでに完結している。

 僕は常に情報が飽和している。


 この厄介な力によって。


「晴れ……曇り……晴れ……晴れ……雨……雨。げっ……雷」

 パッと顔を上げて視界に入ってきた人の頭の上に天気予報のように様々なマークが浮かび上がる。


『他人の心情が天気のように浮かび上がる』


 物心ついた頃から僕が神様から授かった力。

 視界に入った人間の心情が無条件で瞬時に頭に流れ込んでくる。

 俺に選択する余地もなければ、拒否する権利さえもない。

 自分の身体なのにこの力に僕はこの身体を支配されている。


 自分ではどうしようもないのであれば、力が発動しないようにするしかない。

 それが僕の出した結論。


 だから他人と関わらないし、なるべく視界にもいれない。


 ――気持ち悪い! 


 もう――あんな思いをするのは金輪際ごめんだ。


「――いた……」


 やめだ。

 過去の記憶を掘り起こしても嫌悪感が立ち上るだけだ。

 体中が鼠色の雲で覆われる錯覚に陥ってしまうだけだ。


 俺はもう一度手元の文庫本へ目を移す。

 すると木陰の色がより黒く、濃くなった気がした。

 違和感を持ち、顔を上げると――


天空あまぞら陽葵はるきくん……だよね?」


 1人の女子高校生が木に寄りかかっている俺を見下ろしている。

 栗色ががった艶やかな髪を肩に届くかどうか曖昧なラインできれいに切り揃えられたボブカット。

 身長は150cm半ばくらいだが、身長以上の圧力がある。


 俺が声を発する余地も残さず、目の前にいる女子高校生はとんでもないことを口にするのだ。


「私の感情を私に教えてほしいの」


 迷いも戸惑いも感じさせない日陰を照らすほどの光が込められた声。

 冷やかしでもからかいでもない。


 僕の直観がそう判断している。


 僕は今以上も以下も望んでいない。

 だから厄介事を持ち込まないでほしい。


 だけど――


 世界は勝手だ。なぁ神様。



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