プロローグ 2 夢でも会いたい その六

 呼ばれて気が付いた。

 自分の色、いや、世界の色がどんどん淡くなっている。

 夢の終わりだ。

「最後に確認だ」

 その言葉で正行の顔が引き締まる。

「生きていたとき、俺がお前に色々話をした。その中で一番言っていたのは覚えているか?」

 問われた正行は少し考えた。

 とつとつを思い出すように言った。

「……『怒りは肉体を鋼鉄の鎧に変える。悲しみは万能の盾になる。慈悲は最高の剣となる』」

 これはちゃんと覚えていたようだ。

――ならば、大丈夫

 春平の顔に笑顔が戻った。

 いつの間にか、雨も止み、また、二人になった。

「じゃあ、またな」

 祖父は背を向けた。

 正行は何も言わない。

 言いたいことは山のようにある。

 でも、喉が全て拒絶する。

 と、春平は足を止めた。

「最後に一ついい事を教えてやる。上を見てみろ」

 正行も空を見る。

 あれだけの曇天から少しずつ、一筋の光が射した。

 そこから青い空が見えた。

「空の向こうには青空があるんだ」

 祖父も消えても、正行は空を見ていた。

 虹が出た。

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