第42話

 さくらは昼ごはんのあとに家に帰り、時雨は残りの休憩時間は寝たいと和室を借りてすぐ寝息を立てた。


「なんだかんだで朝からうちの家事をいつものようにやってから来たから疲れたんだろうね」

「すぐ寝ちまったな……」

 と時雨の寝顔を見て二人は和室の襖を閉じた。


「あのさ、俺の部屋行くか?」

「えっ……」

「べつになにもしないって」

 藍里はキョロキョロしてる。里枝夫婦も居間におらず、まだ休憩時間も残っている。


「べつに時雨さんみたいに寝ててもいいけど?」

「んー、なんか目が冴えてる」

「まじか、なら部屋行くか?」

「その流れで行くの……変な感じだけど行く」

「ついてこい」

 藍里は清太郎についていった。彼女は同世代の男の人の部屋には入ったことがない。

 階段を登るたびにドキドキする。下には他の大人たちはいるのに二人きりで、と思うと藍里はドキドキした。

 時雨といる時は平気だったのに……と思いながらも。


 部屋は2階、階段上がってすぐのところにあった。昔はここに里枝の長男、清太郎の従兄弟が使っていたそうだ。彼らはもう結婚して県外から出て行っている。

 部屋は至って普通でベッドと学習机はそのまま中身は変えて使わせてもらっているようで従兄弟たちは清太郎よりも十歳上だからか少し年季が入ってた。


 ドアを閉め中に入る。机の上にはたくさんの参考書やノートがある。大きな窓はとても景色がよく見える。藍里の部屋は窓が小さい。直ぐ隣に建物があってこんなに綺麗に見えない。

「椅子でもいいし、ベッドでも好きな方でどうぞ」

「じゃあ、いす。すごい良い椅子だね」

「その椅子は昔から使ってて座ってても疲れにくいから持ってきた」

 藍里はその椅子が気に入って深くぐいぐい跳ねると椅子が沈むので何度もやってみた。

 清太郎はその無邪気な姿、そして時折スカートがフワッとあがる瞬間がありドキッとした。


「こら、壊れるわ」

「ごめんごめん、たのしくてつい。清太郎も座ってよ。こっちの椅子がよかった? 私ベッド行くから」

「いい、いい、ここに座れ。俺は立ったままでいい」

 そう、と藍里は机の上に目をやる。東京の大学の過去問の参考書。


「すごいね、勉強してる」

「当たり前だろ……てかお前は進路決まったのかよ」

「大学展今度行ってから」

「ある程度目星つけとけよ。無駄なところ回ると大変だから」

「大丈夫、時雨くんと行くから」

「……さくらさんは仕事か」

「うん、しょうがないよ」

「俺が行けたらよかったのにな。去年行ったからある程度勝手はわかる」

「だってその日、おばさんたちくるんでしょ」

「ああ、憂鬱。夕方には栄で集合でよかったよな」

 そう、大学展のあと清太郎親子と藍里親子、時雨で会うことになったのだ。ほぼほぼ清太郎の母親のゴリ押しである。


「しつこいからさ、ごめんな。さくらさんにさっき言えばよかったけど」

「私がうまく言っとく……でもさ里枝さん見てたら宮部くんのお母さんみたいで、たぶんママもそう思ったと思う」

「里枝さんもだけどそれ以上だから。その中間が姉貴で」

 藍里は笑った。笑っては行けないのだが。


「おじさんはほんと穏やかだよね。宮部くんのお父さんも宮部くんも」

「宮部家の男は全員こんなんだ……」

 二人の間に沈黙が流れる。二人きりで部屋の中で何をするのもどうすればいいのやら。

 子供の頃は平気だったのに、とお互い成長して年頃の年代になり意識しあってしまう。


「あのさ、もう宮部くんじゃなくて清太郎って呼んで」

「ああ……清太郎……うん」

「そう、それでいいよ。今度みんなで会う時3人宮部いるからさ」

「それでなんだ……」

 清太郎は床に座る。藍里も合わせて椅子から降りて床に座る。


「椅子に座れよ」

「ううん、この方が目線同じ」

 なら、とベッドに座る清太郎。藍里も座る。すると清太郎が肩を抱き寄せる。


「ちょっと……」

「……」

「まだ返事してなかったね」

 と藍里が言った瞬間、清太郎がキスをした。

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