第二章 幼馴染

第6話

「久しぶりやな」

「だね」

「うわ、喋りがやっぱ都会の人間になっとるわ」

「そう? 神奈川にいたのは三、四年だし」

 休み時間、級長である清太郎に学校案内してもらう藍里。

 久しぶりの再会である清太郎との会話も弾む。


「まぁここ愛知やからな、名古屋弁移るよ」

「岐阜弁もさ、名古屋弁に影響されとるやん」

「あ、出た。藍里の岐阜弁」

「えへへ」

「えへへはちゃうって……」


 2人は何となく照れくさい。それにあまり距離は縮めてしまうと周りからカップルと思われてしまうのも嫌なのか清太郎は少し距離をとる。それを読み取り藍里も少し離れる。


「そいや宮部くん、ここまで電車で通ってるの?」

岐阜から通えない距離ではないし、清太郎と同じく県外からの生徒も多数いる。地元にも高校はいくつかあるのだが、なぜか彼は隣の愛知県に通学しているのに少し藍里は気になっていた。


「あ、一年の途中まではそうやったけどさ。こっちに親戚がおってな。母ちゃんのお姉さん夫婦。一度大雨あった時に泊まらせてもらって、そこから通った方が楽ってわかってさ、夏休み明けからそうしてる」

「え、家族の人はいいって言ったの?」

藍里は清太郎の家族とは顔見知りで、特に母親同士仲良かったが、それでもさくらは清太郎の母親に連絡もしないままであった。


「……まあな。おばちゃんちはもう子供大きいから部屋空いてるし面倒見たがりだから。それに実家から出たかったし」

「お母さん……寂しがってなかった?」

藍里の記憶の中での清太郎の母親は上に女の子、そして次の清太郎の2人の母親で、特に甘えん坊だった清太郎を特に可愛がってるのを覚えていた。


「……べつに。それに父ちゃんは単身赴任中やし、姉ちゃんと女2人きり気楽にやっとるやないの?」

「お姉ちゃん怖いもんね」

「そやそや……うるさいから。ってそれ聞いたら怒るでー」

「ごめんごめん」


 するとすれ違った女子生徒2人が藍里たちを見てコソコソ話している。

 恋人同士と間違えられたのだろうか。2人は少し話すトーンを抑えた。


「それよりもお前の母ちゃん、元気か」

「えっ……」

「うちの母ちゃん、心配しとるんよ」

「まぁ元気にしてるよ」

「ならええけど。お前たちいなくなってから母ちゃん、しばらく病んだんや」

 藍里は言葉を失った。自分達がいなくなったことで心を痛めた人がいるとはと。


「僕も心配やった、めっちゃ……でも母ちゃんはお前の母さんの悩み全部きいとったのに助けてやれんかったって」

「……そうだったんだ。ごめんね」

「謝ることはないし、母さんには言わんといてや。まぁ大人たち同士のことは僕らにはどうもできんけどさ」

 学校案内とかいう名目で久しぶりの再会の会話になるが、そのようなことを聞くとは思わなかった藍里。


「……あとこれ言うのもアレやけどさ。お前の父ちゃん、すごいよな……て父ちゃんじゃないか」

「ああ、そうね。いつかは言わなきゃと思ってたし。離婚したんだよね。それからお父さん東京に行って劇団に引き抜かれて……」

「今じゃプライムタイムで主役級、コマーシャルもたくさん」

「たしかに……」


 そう、藍里の父、さくらの元夫は地方の劇団員から東京の大手劇団に移り、テレビに引っ張りだこの俳優、橘綾人である。


「地元では有名でお祭り騒ぎ」

「なんかもどかしいというかこっぱすかしいというか」

「……離婚しても父さんは父さんでしかないのか、藍里にとって」


 藍里は頷いた。優しくて面白くて背が高くスタイルも良く世間で言うイケメンな父。だが仕事のストレスをさくらに当たる昭和男で、子供の前平気でさくらに対するセクシャルなことを嫌がってるのにも関わらずする一面を目の当たりにしていた彼女は複雑でもある。


「そっか。あ、一応案内は終わりだけど……一緒に帰るか? 部活動は基本自由なんや。塾とかバイトとか行ってる人が多いし、スポーツは優待生メインだしね」

「……私もバイトしてるからもう帰るよ。案内ありがとう」


 すると清太郎が藍里をじっと見た。

「なら一緒に帰ろや」

 自分よりも少し背が高くなり大人びて声変わりした彼に対してドキドキさせられる。

だがここ最近もこんなドキドキをしたばかりだったのに、と思いながらも


「うん」

 と頷く藍里であった。

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