第12話 ハリー様は心配性です
しばらく喧嘩をした後、落ち着いた2人。
「あなたなんかに構っている暇はない。さあ、カトリーナ殿、早速この石に魔力を込めて下さい。そして殿下に届けに行きましょう」
グラス様が石を渡してきた。一気に魔力を込めると、やはりエメラルドグリーンに変化する。
「相変わらず魔力が安定している。そうだ、せっかくなら陛下や王妃様、王太子殿下にもこの魔石のすごさを一緒に見てもらおう。おい、今すぐ王族に伝え、面会できる様手続きを行え」
近くにいた魔術師に指示を出すラクレス様。
「グラス殿、この石は私が預かっておく。いいですか?王族が集まっている中で、改めてハリー殿下にこの石を使っていただく。それまでは、石の存在は内緒だ。いいな!」
「は~、仕方ないですね。それでは、私たちはこれで」
あきれ顔のグラス様と一緒に、塔を後にした。
「カトリーナ殿、申し訳ございません。あの男は、自惚れが酷くて…本当にお恥ずかしいところを見せてしまって…」
「大丈夫ですわ。気にしないでください」
正直ラクレス様もグラス様も、似た様なものだ。でも、2人にあんな一面があったなんてね。思い出したら、笑いがこみ上げて来た。
その時だった。
「カトリーナ!!こんなところにいたんだね。ずっと君を探していたんだよ」
ものすごい勢いで走って来たのは、ハリー様だ。そのままギューッと抱きしめられた。
「ハリー様、どうされたのですか?そんなに急いでいらっしゃって。まさか魔力が欠乏したのですか?」
今朝魔力を提供したが、もう無くなったのかしら?そう思ったが、魔力が吸収される感じはない。
「いいや、魔力は大丈夫だ。それより、なぜグラスと一緒にいるんだい?こんな場所で、2人で何をしていたんだい?」
なぜか鋭い目つきでグラス様を睨んでいるハリー殿下。
「で…殿下、別に私たちは、2人で会っていたわけでは決してございません。あそこのベンチに座っていらしたカトリーナ殿と、ばったりお会いしただけです。そうですよね、カトリーナ殿」
なぜか必死に訴えかけてくるグラス様。ここは話しを会わせろという事ね。
「ええ、実は私、あのお花が好きで、よくここに見に来ているのです」
私が指さした先には、美しいピンク色のお花が咲いている。このお花は“桜”と呼ばれるお花で、通常は1週間程度で散ってしまうそうなのだが、魔力を使って年中咲いているらしい。
「カトリーナは桜が好きなんだね。それなら、こんな奥の方まで来なくても、手前の庭にも植えてあげるよ。それから、君はメイドを連れずにすぐにどこかに行ってしまう。何度も言っているが、メイドを必ず連れて行動してくれ」
その言葉、耳にタコが出来るくらい聞いた。でも私はそう言うのが苦手だ。私の移動ごときで、メイドたちの貴重な時間を奪いたくない。
「ハリー様、私はこの王宮から出る事はありませんので、メイドを連れて歩く必要はありませんわ。そもそも、私は魔力量が多いので、そうそうやられる事はありません」
私は無駄に強い。ちょっとやそっとの暗殺者が現れても、逆に倒してしまうのだ。そういえば、マレッティア王国にいた頃は、よく知らないおじさんたちが私を攻撃して来ていたわね。今思えば、きっと王妃様が送った暗殺者だったのだろう。
もちろん、秒殺で倒したけれど…
「そう言う問題ではない。第一、俺がこっそり付けた護衛騎士たちも、いつも必ず途中で君の居場所を見失ってしまうんだ!おかしいだろう?一体君は、俺に内緒で何をしているんだい?」
ついに護衛騎士をこっそり付けている事を暴露したわね。ここはとぼけるのが得策ね。
「あら?ハリー様は私に、護衛騎士を付けていたのですか?その様なお話しは、聞いておりませんが?」
コテンと首を傾げ、聞き返す。
「イヤ…そうではなくて…まあいい、そうだ、もうお昼ご飯の時間だよ。さあ、行こう」
そう言うと、私の腰に手を回して歩き出したハリー様。さすがに私に内緒で護衛騎士を付けようとした事は、知られたくはないのだろう。
そそくさと食堂へと向かうハリー様を、後ろで密かに笑っているグラス様。あの人、腹黒ね…
いつもの様に、私の大好きな野菜をメインにした食事が並ぶ。ハリー様とは毎日朝昼晩、一緒に食事をしている。すっかり私の好みを理解してくれたハリー様が、私が好きなお料理をこれでもかというくらい、料理長に作らせているのだ。
「そうだ、カトリーナの為に作らせた野菜と果物、ラベンダー畑が完成したんだ。早速今日の午後、一緒に見に行こう。毎日魔力を与えたおかげで、立派に育っているよ」
「まあ、本当ですか?それは楽しみですわ」
ここに来てすぐに、ハリー様が王宮を案内してくれたとき、私の好きな野菜や果物、お花畑を作ってくれると言っていた。それが完成した様だ。きっと素敵な畑になっているのだろう。今から楽しみでたまらない。
「カトリーナは本当に嬉しそうに笑うね。俺は君がそうやって笑顔でいてくれるのが、一番嬉しいよ」
そう言ってほほ笑んでくれたハリー様。その微笑を見た瞬間、なぜか一気に鼓動が早くなる。ヤダわ、私ったら一体どうしたのかしら?
急いで深呼吸をして落ち着かせようとするが、中々落ち着かない。
「カトリーナ、顔が赤いよ。一体どうしたんだい?苦しいのかい?」
心配して駆け寄ってきてくれたハリー様。
「なんでもありませんわ。心配かけてごめんなさい」
「それならいいんだが…でも、やっぱり心配だ。そうだ、俺が食事を手伝ってあげよう」
何を思ったのか、イスを持ってきて私の隣に座り、レタスをフォークに刺し、私の口元に持ってきた。
「さあ、カトリーナ、口を開けてくれ」
「あの…自分で食べられます…」
自分で食べると言おうとしたのだが、そのまま口にレタスを放り込まれた。
「どうだい?美味しいかい?」
「はい、美味しいですが…」
「それはよかった。さあ、もっと食べて」
嬉しそうに口に食事を放り込んでくるハリー様に、それ以上何も言う事が出来ない私。結局、最後まで食べさせてもらう事になったのであった。
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