PBWのお仕事

※これはPBWマスター『田中ざくれろ』のリアクション作成作業を基にしたもので、他のPBWマスターの作業と同じであるとは限りません。というか絶対違う。また小説としての演出の為の嘘も書いています)


★★★


 PBW。

 プレイ・バイ・ウェブ。

 ゲームマスターが提示した『世界設定』『シナリオ』に、ゲストであるプレイヤー達が『アクション』という行動宣告を提出し、マスターがそれらをマスタリング処理をして『リアクション』という小説の形で発表するゲーム。


★★★


 今日はプレイヤーの方方のアクション提出〆切日。

 ゲーム運営にメールで提出された様様なアクションがゲームマスターである自分の所へ転送されてくる。

 ブラックコーヒーを片手にパソコンの前に座る。

 先日までに提出されていたアクションを含め、テキストエディタに全PCのアクションを文章出力し、その全容をざっと眺める。

「ああ~、こちらのヒキに対してそういう対応で来たか。こちらは強引だけど、NPCの懐柔に来たわけね。ん~、このアクションはコメディチックだけど鋭い所を突いてるな。こちらは戦闘を主体にしたアクションか。スキルの使い方がイカスし、楽勝ではないけれどギリギリ勝利出来るかな」

 液晶画面を前にして、独り言を言いながら全アクションを把握する。

 コーヒーを飲みながら、前回リアクション原稿のナンバリングを今回のものに変更し、今回用の新しいテキストデータにする。そこにアクションをすべてコピペ。更にそのアクションを一行か二行程度に要約したメモを作り、原稿の先頭に並べる。

 前回の原稿を流用した意味とは何か。

 今回のアクションを前回のリアクションと照らし合わせてマスタリング判定をするのだ。

 何回も繰り返すので同原稿にあった方がいい。

 メモ列を見て、どうすると矛盾のない時系列が出来上がるか、どのアクションとアクションを混ぜると面白くなるか、起承転結を考えながら並べ替える。

 そしてその成功か失敗かの判断を、PCのアイテムやスキルとを参考にしながら判定する。

 この作業は大変だがかなり楽しい。

 こうしてリアクション文章の骨子が出来上がる。

 必ずマスタリングの初日に思い浮かぶフレーズが口を突いて出る。

「今回こそ〆切に間に合わないかもしれないな……」

 時計を見ると夜も更けている。

 後の作業はこの家に住みついている妖精さんに任せ、床に就く。


★★★


 家に帰ってきてエナジードリンクを片手にパソコンの前に座る。

 妖精さんは仕事をしてくれなかったので、仕方なく一人でリアクション作成作業をする。

 リアクションの流れに沿って、アクションに書かれていたPCの台詞を抜き出し、リアクションの時系列に沿って並べる。

 ある意味、リアクション作成はこの台詞列の隙間を文章演出によって埋める作業だと言っていいかもしれない。いや言いすぎか。

 リアクション文章を書く。

 小説である事を意識して書く。

 BGMはパソコンの音楽プレイヤーをランダムリピート。ヘッドフォンをして外界音を遮断する。集めた音楽データを再生する。特撮からアニソンから洋楽からクラシックまで何でもありだ。

 しかし作業に熱中すると音楽が脳内に聴こえなくなってしまうので、BGMを設定する意味があまりない。今後の課題だ。

 リアクション文章を書く。

 プリントアウトしてあるPCデータと照会しながら書く。

 エナジードリンクを飲む。

「ぎゅーん! ずどどどっどどっど! しゃきーん! だっだっだっ! ずさー! わ~(どんどんどん!)」

 リア内の擬音を呟きながら執筆を続ける。

 自分の文章はいわゆる『気どった言い回し』を多用する。

 この言い回しがピッタリはまったら相当嬉しくなる。

 ゲーム内の演出もこれまでにないものがピッタシ来ると凄く嬉しくなる。これもリアクション執筆の活力になる。カッコつけはパワーだ。

 観たいTVの時間になったので休憩。

 鑑賞中に思いついたフレーズを時折、原稿にメモする為にパソコンを使う。

 その時間のせいで番組の肝心な内容が解らなくなったりする。

 リアクション文章を書く。

 たまに自分のマスタリングの矛盾点を見つけ、解消する為に原稿を遡り、伏線などを書き加えたりする。

 リアクション文章を書く。

 バランスボールに座り続けているのもつらくなってきた。

 時計を見ると夜も更けている。

 全然作業は進んでいない。

 後の作業はこの家に住みついている妖精さんに任せ、床に就く。


★★★


 家に帰ってきてパソコンの前に座る。

 妖精さんは仕事をしてくれなかったので、仕方なくリアクション作成作業をする。

 リアクション文章を書く。

 後の作業はこの家に住みついている妖精さんに任せ、床に就く。

(数日間リピート)


★★★


「何とか今回も〆切に間に合ったか」

 リアクションが出来上がった。

 後は〆切まで推敲を繰り返すだけだが、出来れば余裕をもって運営に提出する。運営から修正をお願いされたりもするからだ。

 そういえば、と今回のイラスト指定を思い出して、ちょっと慌てる。見せ場をピックアップしてイラストにしてもらえるのだ。急いで今回のリアクションのイラスト指定を運営にメールする。

 これで終わりではない。

『マスターより』を書く。

 話を脱線させればいくらでも書けるのだが、そういうわけにもいかず普通に書く。書く内容が普通か? そうでなくても書く。

 数日後に推敲を繰り返した原稿を運営に提出する。

 これで今回のマスタリングは終わりだ。

 いや、まだある。

 次回以降のシナリオを考える。

「ぐわ~! 新鮮なネタがない~! 漫画や小説読んでる時に考えつかないかな~!?」

 パロディが主なネタ元だ。

 漫画を観ていた時の感動をパロディにスライドさせたり、映画で気になった矛盾とかお伽話でエロいところをシナリオに投影して膨らませる。

 でもそう簡単には考えつかない。下らないネタだけ思いつくのでそれをテキストにメモする。後でネタが合体して立派なシナリオになったりする。

 マスターはシナリオさえあれば何とかなる。

 PBWマスターとは、プレイヤーとは別の立場からゲームを楽しむ方法だ。

 夜更けに床に就く。

 時時マスタリングの〆切に苦しんでいる夢を見る。

 この世の中に何人マスターがいるかは解らない。

 しかしプレイヤーが存在する限り、PBWのマスタリングは続くだろう。

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