第28話 親と子
改めてお父様に言われたら、確かに結構な無茶をしてしまったかも。
でも、これでヴォルティス様の魔力は無駄に使われることがなくなる!
……待って?
もしかして他の場所の結界も、今までヴォルティス様の魔力を無駄食いしていた?
「こうしていられませんわ。私、他の場所の結界も最小最大に書き換えてきます」
「こんな大規模な魔法を使ったあとに!? お、落ち着きなさい、レイシェアラ! いくらなんでも無茶すぎる! いくら魔力を竜王陛下から貰い受けている『聖女』だとて、魔法の書き換えは心身への負担も大きい! しかもこれほどの規模の結界のあとに……無茶だ、やめなさい!」
「大丈夫です。疲労耐性がありますから!」
まだイケる!
……でも、また過労で倒れたらヴォルティス様とベルに看病させられてしまうから、あと一箇所くらいに留めておこう。
私な疲労耐性が高いから、疲労を感じにくいみたいだし。
早めに自分で自分のステータス確認ができるように、ステータスの魔法を教わろう。
そうね、今日、このあともう一箇所修復して塔に帰ったら、教えてくださいと頼もう。
ステータスさえ覚えれば、明日から自分の限界まで頑張れるわ。
『大変だにゃん、あるじ様! あたちの[索敵]にあるじ様の天敵の反応があるにゃん!』
「[索敵]? 天敵?」
『あたちの固有魔法にゃん! 半径一キロ以内に、あるじ様を知っている者の魔力を感知するんにゃん』
「へ、へぇ」
そんな魔法があるのね。
冒険者の方は持っていると便利そう。
そして多分、ベルの時のように私の記憶を勝手に使われているのね。
うーん、そこだけはどことなく嫌なような。
でも、私の天敵というと……。
「まさか、ニコラス殿下のことか?」
「ま、まさか? お父様、殿下は郊外にいらっしゃるのですよね?」
「ああ。郊外から騎士団に通って、騎士爵の取得を目指している。王妃様のご慈悲だな」
「どんなにアレでも王妃様にはお腹を痛めたご子息ですものね……。つまり殿下は騎士団に向かっている、と」
お城のすぐ側にある騎士団の施設。
訓練場や寮もあるので、とても広い。
あえて寮ではなく、郊外の屋敷に住むよう言われているのはこれまでの度重なる注意を聞き入れなかった結果だろう。
ほかの婚約者たちも、皆さん無事婚約解消できたのかしら?
ベティ様、まだ殿下と婚約したままなのかしら?
あの方とてご実家の家計が火の車なのだから、そう簡単に殿下と婚約を解消できない、とは思うけれど……。
元々の散財癖が原因なのだから、ベティ様と結婚した殿下が今度はお金なくなるのでは?
まあ、ベティ様はあの方と普通に会話しておいでだったから、ある意味相性抜群だと思うけれども。
「やり過ごして結界が消失している西の町に向かおうと思います」
「本当にまだ働くつもりか? 体は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですってば、お父様ったら心配しすぎ——」
肩を掴まれ、本当に心配してくれているお父様を見上げて笑う。
でも、私の父でさえこんなに私を案じてくれるのだ。
王妃様はあんな無茶苦茶なやんごとないアホでも、きっと……。
親だから。
私はあの方に二度と会いたくないけれど、親とはきっとそういうものなのだろう。
その愛は、とても尊い。
どうかあのアホに、王妃様の尊い愛を理解してもらいたいものだ。
無理だろうけど。
「……」
「? レイシェアラ? どうした? やはり体調が悪いのではないか?」
「いえ、私は……私はお父様とお母様に親孝行したいのです。王都に住むお父様やお母様、兄や弟たち。これでもう、魔物に脅かされることはない」
「レイシェアラ……」
私は親孝行したい。
ニコラス殿下は、これほど大切に愛されているのに、陛下や王妃様に対して親孝行しようと思わないのだろうか。
ああ、多分私がニコラス殿下を生理的に受けつけられなくなっている決定的なところはそこだ。
私は家族を愛してる。
家族にはニコラス殿下の尻拭いのために、色々無理を言ってきた。
申し訳ない。
本当なら殿下の婚約者たちを支援するなんて、同じ婚約者の私がやるべきことではないのかもしれない。
少なくともルイーナには「レイシェアラ様はお人好しすぎます」と注意されてきた。
でも放っておけなくて、婚約者筆頭として、公爵家の者として、彼女たちを支援してきた。
家族には申し訳ないと思ってる。
私の我儘で、家に負担を強いてしまった。
お父様は私の「お人好し」も「レイシェアラのいいところだよ。でも無理はしないように」と言ってくれた。
私のことをずっと愛して、認めてくれた。
お父様、お母様。
お兄様に弟たち。
私の愛する家族に、普段をかけてきた。
私は、だからこそ親孝行したい。
聖女になったから、家族を守る立場になれる。
今、こうして結界を直すのも家族のため。
ニコラス殿下は——どうしてるこんなに愛されて大切にされているのに、それを無視できるのだろう。
理解ができない。
こんなに大切にされてきたのに。
本当は怒りたくないのに叱って、注意して、お説教して。
全部あなたのためを思って、陛下もお妃様も心を鬼にしてきたのに。
あの方ときたら——!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます