第3話 呼ばれる聖女
本当に人の話を聞かない人ですね!
どうしたらいいんでしょうかね、このアホは!
おかしい、私や陛下や王妃様も、彼の従者も友人も婚約者一同……散々彼を正しい道へ、王太子としての責務と国を憂う心を持たせようと頑張ってきたのに。
どうして、どこで間違えたのですか?
どうしてこんなにアホになってしまったのでしょうか。
これはもう取り返しがつかない。
私を幽閉して竜王の下へと行かせない、なんて……国家反逆罪です。
竜王ヴォルティス様の魔力供給がなければ、今の時代国家はやっていくことができないのですから。
貴族だけでなく、平民にも魔法は必要不可欠。
魔力溜まりから生まれる瘴気が、さらに濃さを増すと魔物が生まれてしまう。
その魔物を討伐する騎士団や、冒険者たちも魔法を使います。
この国……いいえ、この国に限らず、この
人々の暮らしに魔法はなくてはならないもの。
当たり前にあるもの。
それが完全に使えなくなったら?
大混乱ではすみません。
「次は食事を持ってくる。待っているがいい」
「っ! 殿下、お待ちください! 殿下!」
はっはっはっ、と楽しげに笑って去っていくニコラス殿下。
……嘘でしょう?
本当に私を、新たな聖女が選定されるまでここに閉じ込めるつもりなのですか?
「そんな話、聞いたことがない……」
聖女の選定再考なんて。
そして、それから約十時間。
案の定、食事が来ない。
「絶対に忘れていますね。ベティさんと町に出かけてお茶でもしているんでしょうか。ああ、容易に目に浮かびます。くびり殺してやりたい。……いけないわ、レイシェアラ。落ち着いて、クールにいきましょう。あのアホ王子が今更私の存在を忘れたからなんだというので……」
ぐーーーー。
……私が飢え死ぬかもしれないわね。
「もーーー! ここから出してーーー! せめて水を! 水を置いてってくださいよーーー!」
叫んだ瞬間、ドゴオオオォォォォンという聞いたこともない轟音と振動。
天井が崩れ、私は頭を覆ってしゃがみ込む。
「きゃああああぁ……!」
自分の周囲に崩れた天井の瓦礫が落下していく。
なになになに、なにが起こったの!?
じ、地震!? 竜巻!? 死ぬ!?
混乱すると、真っ黒な空が頭上に広がった。
あまりにも濃い暗雲。
雷が雲の合間を駆け抜けて、輝いている。
「……っ……綺麗……」
雷雲だ。
この国の竜王……ヴォルティス様が司るのも雷。
間もなく雨が降り注ぎ、私はびしょ濡れになる。
「み、水!」
あまりにも飢えていたせいか、貴族令嬢にあるまじき行為をやらかした。
口を開けて、恵みの雨を精一杯飲み干す。
それに夢中になっていると、馬蹄の音がいくつも近づいてきた。
「おい! 大変だ、落雷の跡地に人がいるぞ!」
「大丈夫か!?」
「あ……」
はしたないところを、駆けつけてきた騎士の皆さんに見られてしまった。
きゃー、恥ずかしい!
けれどこれで助かった。
地下牢の中にいたので、とても一人では脱出できそうになかったのだ。
喉も程よく潤ったし、天の助け——。
「……」
もしかして、この刻印が助けてくれたのかしら……?
都合よく考えすぎ?
でも、落雷と雨……雷を司る我が国の竜王。
私はその雷を司る竜王の聖女。
「……っ」
いいえ、きっと助けてくださったのね。
まだお会いしたこともないのに、なんてお優しい方なのだろう。
それとも、溜まった魔力が瘴気を帯び始めてヴォルティス様が苦しんでおられるのだろうか?
だから私に早く来てほしい、と。
だとしたら急いでお側に行かなければ。
あのアホ王子に構っている場合ではないわ。
「大丈夫か……って、あなたはレイシェアラ様!?」
「はい、私をご存じの騎士様なのですね。どうか私をここから出して、すぐに竜王様の下へ届けてくださいませ!」
「わ、わかりました! しかしなぜこのようなところに!? すでに出発されているとばかり……」
「そ、それはその……」
痛いところを。
というか、末端の騎士にも私が『竜の刻印の聖女』に選ばれたとすでに知れ渡っているのね。
国の重要事項だから当然かもしれないけれど。
降りてきた騎士に抱えられ、瓦礫の山を登り、そのまま馬に乗せられる。
丁寧に「失礼いたします」と体を密着する騎士。
本来ならば許されない距離だが緊急事態だ。
一刻も早くヴォルティス様のところへいかなければ。
「本当に公爵家ではなく、竜の塔へ?」
「ええ、お急ぎください。きっと早く私を塔へ寄越せとおっしゃっておいでなのです。ニコラス殿下には後ほど正式に抗議させていただきますので、陛下にもそのようにお伝えください」
「ああ、またやんごとないアホの仕業でしたか」
「やんごとないアホ……」
他の二人の騎士様たちも「またあいつか」「またあのやんごとないアホか」と表情を歪ませておられる。
やんごとないアホ……言い得て妙というか、的確というか……。
というかこの様子だと迷惑を被っていたのは私たちだけではない様子。
騎士たちにまで、一体なにをしたらこんなに嫌われるのでしょうね。
「では、本当にどうでよろしいのですね」
「はい。荷物は後日送ってくだされば問題ありません。一刻も早く私をヴォルティス様のところへ」
「了解しました。飛ばしますので舌を噛まないようお気をつけください! おい、誰か一人城と公爵家へ連絡を!」
「了解!」
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