第66話 07月31日【4】
「趣味と言えるか分かりませんが、休日はよく水族館や動物園を訪れています」
私の捻り出した質問を「まるで見合いのようだ」と笑いながらも、
「彼氏さんと行くんですか?」
私が尋ね返すと、
「彼氏が居たら、お見合いなんてしませんよ」
「あ、そうか。確かに」
「
「居たらお見合いなんてしませんよ」
「確かに」
互いの言葉をわざとそっくり返して、私達は「ふふふ」と笑い合った。
「というか私、今までお付き合いをしたこともないんです」
「本当ですか?!」
こんな美人で頭も品も良い女性に男性遍歴が無いとは……彼女の周りに居る男どもは一体何を見て生きているのか。
「仮にも見合い相手にこんなことを言うのは変かもしれませんが、私は恋愛というものが分からないんです」
両手に握った缶珈琲をじっと見つめ、
「私は人の好意を真っ直ぐに受け止められません。自分でも捻くれ者だと理解していますが、『愛している』とか『好きだ』とか言われても、無意識にその言葉の裏を探ってしまうんです…」
「言葉の裏?」と私は首傾げて尋ね返す。
「例えば
「……っ!」
『当たっている』――驚きのあまり、私はその言葉を喉に詰まらせた。
「告白を受けたことは何度かあります。けれどプロポーズの言葉の深意を
言いながら缶珈琲を握る彼女の手が、僅かに震えた。
「高価なプレゼントや食事で御自身をアピールされることで、より一層、私は疑念と嫌悪感を覚えるようになりました。女性を物で釣ろうとしている浅はかさが目に見えているようで――」
「いや、それは違うと思います」
溜め息と怒気を織り交ぜる彼女の言葉を遮るよう、私は言葉を挟んだ。すると先ほどまで笑顔だった
「まさか、
「いえ、そうじゃありません。ただ、
「み、みりょ…っ?!」
「だって好きでもない相手には缶ジュース一本だってあげたくないですよ。なのに
瞬間、吊り上がっていた目尻は下がり、紅潮した頬で呆れた様相を示す。
「なら、この缶珈琲も私を好意的に思って下さった
「いえ。それは別に」
「そ、そうですか…」
「はい。僕の場合は好意じゃなくて尊敬です。それに感謝の気持ち。
私は感謝の意味を込めてニコリと笑顔を送った。けれど
「
「えっ!? すごい! よく分かりますね! そうなんですよ。実は以前にもクリニックの隣の薬剤師さんから――」
「あっ!」
「ふふっ。罰ゲームですね」
「あー! 誘導尋問に引っかかっちゃいました!」
「さあ? どうでしょう?」
フフンと鼻を鳴らして得意気に、彼女は澄ましてみせた。
「くそー、でも負けは負けですからね。罰ゲームはなんですか?」
「うーんと、そうですね…」
すると数秒も経たないうち、閃いたのか私の手を指した。
「そのハンカチを、洗って返して下さい」
ハキハキと明るい声で言われ、私は手に握るハンカチを見た。腫れた頬を冷やしてくれた薄紅色のハンカチ。
「そんなの罰ゲーム関係なくお返ししますよ。他のことにしませんか?」
「いえ。いいんです。ただ、ちゃんと洗って返してくださいね?」
何度も「洗って」と強調するのは、私の肌に触れたのが余程気に入らないためか。
なんだか、ちょっとショックだ…。
一人静かに肩落とす私を他所に、
「私の連絡先です。お返し頂ける時には、こちらへ電話かメッセージを下さい」
「分かりました」
電話番号が書かれたメモ帳を受け取り、私は丁寧に財布の中へ仕舞った。
「あ、もうこんな時間ですね。そろそろ戻りましょうか」
「はい」
言われて私は紅茶を一気に流し込み、
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