第211話 天上界への疑問
護衛艦ヴィルミアーシェ上で行われた平野とガラムとの会談は、夜遅くまで続いた。ガラムが王都に戻る際には、ヘリでの夜間飛行に興奮するガラムを抑えるため、真九郎まで同乗させられた。
「それではガラム様、またお会いできるときを楽しみにしております」
「こちらこそだ平野艦長! ぜひまた乗艦させて欲しい! できれば戦闘にも参加……」
子どものようにはしゃぐプラチナ冒険者の首根っこを、鬼族の少女である真九郎がつかんで持ち上げる。
「さぁさぁ、早くヘリに乗るのですん! 急がないと私の寝る時間が減っちゃうじゃないですかん!」
「首をつかまれてプラーンって大人しくなるガラム様、猫みたいで素敵! あっ、平野艦長、大変お世話になりました!」
黒服メイド少女のミライが、平野に向ってペコリと一礼すると、ガラムや真九郎と一緒にヘリに乗り込んで行った。
飛び立つヘリを敬礼で見送った後、平野は艦内に戻りながら、今回の会談の成果について考えていた。
まず、この会談を通じて平野は、勇者についての最新の情報を得ることができた。
さらにガラムが、勇者の冒険者パーティーに加わったことが何度もあり、かなり深い信頼関係が築かれていることも分かった。
勇者については、実際に会ったこともある南と坂上大尉からある程度のことは聞いてはいた。しかし、勇者と共に幾度も死線を潜り抜けてきたガラムからは、より深い内情を知ることができた。
平野は士官室に南と坂上大尉を呼び出し、ガラムから得られた情報について擦り合わせを行う。
「平野静香さん……勇者シズカのことなのだけど……」
「苗字が艦長と同じですね。もしかして親族だったりするのでしょうか?」
南大尉の問いかけに平野はゆっくりと首を左右に振る。勇者シズカは中学生のときに、この世界に転移してきたということだったが、平野の身内に中学生で亡くなった者はいなかった。
「その静香さんだけど、ガラム氏によると転移は最悪の状況だったそうよ。その……とにかく辛い状況で、自分が勇者であることを知る前は逃亡奴隷として、かなり質の悪い娼館で働いていたそうなの」
平野の話を聞いて、南・坂上両大尉が固まる。
「えっ……」
「……そのような話、私たちにはしてくださいませんでした」
「それは仕方ないわ。初めて会った人にできるような話ではないでしょうから。以前、高津艦長が貴方たちの報告を聞いて、天上界に対して激怒された理由が改めて分かったわ。勇者なんて運命は、中学生の子どもに背負わせるようなものじゃない」
そう言って平野が柳眉を寄せると、坂上大尉が、
「そこまで酷くはないにしても、シンイチくんも似たような体験をしているようでした。転移したときは山奥に丸裸で、しかも山賊に囲まれていたそうです」
それを聞いた南大尉が、俺も俺もと手を上げてラーナリア大陸の勇者でもあった自分の甥っ子のことを語り始めました。
「それを言うなら、うちの浩二だってそうですよ! 雪山の中で素っ裸で放りだされて、すぐに妖異に狩られてますから! しかも、脳まで取り出されて、天上界の連中っていったい何考えてるんでしょうかね!」
南と坂上大尉の話を聞いた平野は、天上界に対して疑念を抱いていた高津艦長の考えに、改めて納得することができたのでした。
「ガラム氏によると、勇者は現在、王都から東にある森林地帯に向っているそうよ。ほら、もう一人の転生者の男の子がいたでしょ。確かキー……」
南大尉が喰いついて、声を被せるように、
「キーストン・ロイドですよ! 帝国ではカプチュンで働いてて『モン娘ハンター』の開発部署にいたんです。いやぁ~、前に会ったときには、いろいろと裏話聞かせてもらって嬉しかったなぁ。自分、モン娘にはドハマりしてました。いやぁ、登場するモンスターが全員巨乳……」
ピキッ!
その瞬間、場の空気が絶対零度となった。
南が我に返ったとき――
目の前の平野からゴミ虫を見るような見下し視線。
そして、右隣からは凍てつく冷気が漂ってきたのであった。
ゴゴゴゴゴゴッ!
(冷気の音じゃねー! やばい!)
身の危険を察した南大尉。
「あっ、えっ、いやぁ……全員が巨乳ってわけじゃなくて、どちらかというと俺は、こうバランス重視っていうか、ほら、スレンダーがタイプで……。あっ、ほら、これ見てみ、スノーレディってモン娘なんだけど……」
慌てて南大尉はスマホを取り出すと、そこにモン娘「スノーレディ(Bカップ)」の画像を表示して、坂上大尉に見せた。
「俺、このモン娘、超好みでさー。なんでかなーって考えてみたら、ほら、なんとなくお前に似てるんだよねぇ。なるほどーって思ったね。なんか可愛くて仕方ないなーって思ったら、なるほどーって思ったね! 春香に似てるからかーって!」
見苦しく言い訳を並べる南大尉。
額から汗をダラダラと流している大尉を正面から見据えながら、平野は、間もなく南大尉に訪れるであろう坂上大尉からの
(医療班を呼んでおいた方がいいかしら?)
と、真剣に考え始めたそのとき――
「ニコッ❤❤」
(えっ? ニコッ!? しかもハート付き!?)
坂上大尉から発せられていた冷気は、一瞬にしてラブ波に変わっていたのだった。
「なっ!? 春香っぽいだろ? その、あの、ほら、雰囲気とかさ、カワイイよね! このキャラが何でカワイイかっていうと、つまり春香だったんだよなぁ」
「ニコッ❤❤ ニコッ❤❤」
(これが新婚効果なの!? というかそれでいいの坂上!? チョロすぎない? あまりにもチョロ過ぎない!?)
クールさにおいて定評のある坂上大尉のチョロいデレ具合に、真剣に不安を感じる平野であった。
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