第186話 礼儀正しい銀の巨人

  我々が二体の大型妖異を倒した後、黒い石碑を破壊した巨人。


 その巨人が、今、護衛艦フワデラに大きく両腕を振っている……。


 思いもよらなかった巨人からのコンタクトに、私たちは戸惑った。


 うーむ。どのように対処すべきか……。


「フワーデ、とりあえずイタカを一機だけ残して、他は帰投させろ。残った一機は、巨人の近くへ移動だ。ゆっくりとな」


「わかったー!」


 ドローンが近づいたことに気が付いたのだろうか、それまで手を振っていた巨人が動きを変えた。


 最初にその動きの意味を読み取ったのは田中航海長だった。


「あっ! これお辞儀ですよ! この巨人さん、お辞儀してます!」


 謎の巨人の動きということで、深読みし過ぎて気付かなかったが、言われてみれば、田中の言う通り確かに、巨人の動作はお辞儀だった。お辞儀を繰り返していた。帝国の工事現場に置かれている看板のような、それはもう見事なお辞儀だった。


 さらに、


「あっ、巨人さんが両手でどうぞどうぞしてます!」


 田中の言葉通り、巨人は傍らの破片の山を、両手で示している。


「田中! 翻訳を頼む!」


「はい! あれはですね……『どうぞどうぞ、こちらの魔鉱石をお持ち帰りください』って言ってますね」


 田中が言うと、もうそうにしか見えなくなってきた。


「あっ!? あぁぁ!?」


 突然、田中の叫んだ理由は、同じモニタを見ていた私たちにも分かった。


 銀色の巨人は、再び私たちに向って大きく手を振った後、


 深くお辞儀をして、


 そしてくるりと背を向けて走り去って行ってしまったからだ。


「あーぁ。巨人さん行っちゃいました」


 田中はさも残念そうな口ぶりでそんなことを言っていたが、私はと言えば却ってホッとため息を吐いていた。


 とりあえず巨人と次に再会することがあったとしても、いきなり敵対してくるという可能性は低いだろう。今はそれだけで十分だ。


「それじゃ、巨人がプレゼントしてくれたらしい魔鉱石を頂くとするか」


 私の言葉に、ホログラム・フワーデが身体を目一杯に開いて、喜びを表現した。


「妖異討伐の報酬もたくさん入ってきてるよー!」


 二体の大型妖異から得られた大量のEONポイントと、銀の巨人がプレゼントしてくれた大量の魔鉱石のおかげで、今後のトゥカラーク大陸での活動に大きな余裕が出来た。


「それにしてもあの巨人は一体何者だったのでしょう」


 思わず獲得した巨額の報酬に盛り上がっていた場が落ち着いた頃、桜井船務長がふとそんなことを口にした。


「わからんが、もしアレがこの大陸の技術によって生み出されたものだとしたら、相当のものだな」


 妖異二体に苦戦していたのは、間違いなく銀の巨人が何も武器を持っていなかったからだ。もしあの戦いで、銀の巨人が扱えるような槍でも持っていれば、いくら動きが素人だったとしても、あの妖異たちとも互角程度には戦えていたことだろう。


「それにしても、あんなのが他にも沢山いるのだとしたら、この大陸の人たちは悪魔勇者なんて恐れる必要はないんじゃないか」


「まぁ、悪魔勇者に側に立つ巨人だっているかもしれませんよ。それにあんなのを量産できる技術を持っているなら、この大陸の国々が今頃は世界制覇をしていてもおかしくありません」


 その後の画像解析で、あの銀色の巨人は恐らく巨大ロボットであるという結論に至った。


「決め手は背中に付いているジェットエンジンに似た機構です。ここからジェットを噴射して、あの巨人は空中に浮くことが出来るに違いありません」


 河野機関長が目をキラッキラッと輝かせて持論を述べる。ロボットアニメが好きすぎて目が偏り過ぎなきらいがあるが、まぁ、わざわざ河野にそれを指摘したりしない。


「まぁ……そうかもな」


 だが河野の主張に対する私の反応は、自分でも思っていたより冷めていた。


「艦長! 自分がメカもの好きだから、分析に偏向が入ってるとか思ってますよね! そうではありません。ジェットだけではなく、音声記録の解析からもロボットの可能性が高いと自分は判断しています」


 そう言って河野は私たちに、ノイズを取り除いた音声記録を聞かせた。


 ジャッ! ……ジャッ! ……ジャッ! 


 巨人が発している声なのだろうか?


「記録映像にこの音声を被せます!」 


 河野がノイズ除去後の音声を、巨人の戦闘時の映像に重ねて再生する。


 ジャッ!


 ジャッ!


 ジャッ!


「こ、これは……」


 最初は意味がわからなかったが、何度も繰り返される巨人の声とその動きの関係が何となく見えてきた。


 私の表情に気付いた河野が言った。


「巨人がタックルしたり、身体を振り回したりするタイミングを見てください」


「何だか命令を受けてから、巨人は行動をとっているように見えるな」


「でしょ!でしょ!でしょ!でしょ!でしょ!」


 河野の喰いつきに、私はついイラッとしてしまった。

 

「それに艦長! まだダゴンだけを相手しているときの巨人の映像見てください!」


 鼻息を荒くして河野が、私に見せた映像には、


 ジャッ!


 という掛け声の時に、巨人が一瞬、両腕を左右に伸ばし、前腕を上に向ける、いわゆるガッツポーズを取っている姿が映し出されていた。


 ジャッ! ガッツポーズ、タックル。

 ジャッ! ガッツポーズ、身体振り回し。

 ジャッ! ガッツポーズ、タックル。


「ねっ! ねっ! ねっ! ねっ! ねっ! ねっ!」


 河野の視線がウザ過ぎて集中できないが、確かに銀色の巨人は、何か命令されて、ガッツポーズで命令の受諾を表現してから、アクションを取っているのが明かだった。


 というか、もうそれにしか見えない。


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